「今年こそは引退できる。そう思っていた時期が…、私にもあったのよねぇ…」 ――月影アヤカ、諦めの顔で |
それでは第二回を始めるわよ。 |
…… |
どうしたのよ微妙な顔して。 |
なんでいきなり講師役も生徒役も総取っ替えされてるのよ!? 前回とまるっきり面子が違うじゃない! |
仕方がないでしょ。 春風さんは試合だし、宝鏡さんは「やっぱ話すのめんどうじゃ」とか言って逃げ出しちゃったし。 |
前者はともかく後者が最悪ね。 |
そういうわけだから我慢なさい。 |
あー、はいはいわかったわよ。 ちゃっちゃか始めてちょうだい。 |
とはいえ何を話せばいいものかしら。 |
あたし達が使わされているこの胸くそ悪い兵器とそのルーツでいいんじゃない? |
話す順序が悩ましいのよ。 かといって一から説明すると長くなっちゃうし。 |
適当でいいわよ適当で。 面倒なところは逃げた人連れ戻してやらせればいいでしょ。 |
それもそうね。 じゃ、歴史のお勉強からいきますか。 |
歴史ねえ……手短に頼むわよ。 |
まず、この世界は前世紀の大戦争を境として比較的平和な時期が続いていたの。 |
前世紀の大戦というとWorldWar2.0のことよね? 授業でも習ったわ。 |
ええ、そうね。 その戦争の際に超広域破壊兵器が使用されて以来、抑止力が働き大規模な戦争が封じられたわけ。 戦争が無くなったわけではないけどね。代理戦争は頻繁に起きてたし。 で、大戦から数十年後にちょっとした事件が発生したわ。 |
どんなよ。 |
詳細は省くけど、一般人の女の子が謎の物体と融合して暴れに暴れたのよ。 今で言うところのヴァルキリー第一号の誕生よ。 |
どのくらい暴れたわけ。 |
第一報を受けて現場に駆け付けた治安当局者が一瞬で残虐な目に遭い。 連絡が途絶えたことで車両数台が急行したものの、同様の末路を辿り。 時間と共に投入される戦力もスケールアップしたけど、ぜーんぶ無駄に終わったくらい? |
つまり手も足も出なかったってこと? 最終的にどうやって解決したのよそれ…… |
女の子を遠巻きに包囲すること数時間、女の子がぱったりと倒れてその場はおしまいよ。 |
随分とあっさりと終わったのね。 |
まあね。けど、事件が世界に与えた衝撃は大きなものよ。 生身で銃弾を弾き返し、手を振り下ろすだけで装甲車両がポンポン吹き飛ぶ様子が世界中に配信されちゃったし。 この事件は大きな転機となったわ。 |
どうにか上手く使えないかとでも考えたわけ? |
ええ。原因究明と共に適切な利用法をどいつもこいつも考えようとしたわ。 そこからはもう、国際政治の舞台上で互いを牽制しながら内では怒濤の研究活動。 |
まー当然そうなるでしょうね。 |
この時打つ手が早かったの、は人権意識が希薄、あるいは体制が遅れ気味とみなされていた国々ね。 あとは主権国家と同等の特権を獲得しつつあった多国籍企業かしら。 彼らは意志決定の早さと倫理観の欠如を武器に、先進国であれば踏み込めぬ領域にも果敢に切り込んでいったの。 |
というとアレかしら。 人体実験とか? |
そのあたりを基本として色々ね。 |
それで結局どんなことがわかったわけ。 |
一つ。世界にはサイズの大小を問わず、あまり良い感じのしない淡い光を放つ怪しげな物質が存在する。 二つ。それらの物質は人間と融合させることが出来る。 三つ。融合が可能なのは概ね思春期から二十歳前後の女性に限られる。 四つ。融合を果たした者は凶悪無比な最終兵器彼女となる。 |
あのー…… 三つめなんだけど、どうして女性に限られるわけ? |
さあ? 極少数の例外的なケースとして男性が融合した例もあることにはあるけれど、基本的には女性のみよ。 |
だからその理由を…… |
うら若き乙女こそこの世で最も神秘的なものだからじゃない? |
理由になってないわよ! |
あら、一応まじめよ? このあたりの説明は宝鏡さんにしてもらうのが一番なんだけどさっき逃げちゃったし。 |
ったくもう…… |
あとは若い女性なら誰でもいいというわけではないじゃないわ。 融合が可能か否かはそれこそ素質次第なのよ。 |
素質の有無を見分ける方法はあるの? |
検査である程度は判別可能ね。 合致する年齢層で数十万人あたり一人の割合かしら。 |
多いんだか少ないんだか…… |
ちなみに適正を持つ少女には一つの共通項が存在するの。 |
というと? |
彼女らは一般的美的感覚に照らし合わせて美少女と表現して差し支えない者ばかり。 うら若き乙女こそこの世で最も神秘的なものであり、見栄えが麗しければ尚更良いというわけよ。 |
……おちょくってるの? |
全然? マジな話よ。 いずれは性差も外見もさほど関係なくなるだろうと宝鏡さんは言ってたけど、少なくとも現時点では今の説明通りよ。 |
あっそ。 |
で、さっき少し触れられた怪しげな物体って何よ。 |
コアのこと? |
そういう名前なわけ? 素質を持った女の子はそれと融合できるのよね? |
そうよ。コアと融合した素質者のことをヴァルキリーと呼ぶの。 融合ではなく装着だの装備と表現する場合もあったり、用語は随分と曖昧かしら。 加工後のコアのみを指してヴァルキリーあるいは機体と言ったりね。 |
ややこしいわねー…… |
ちなみに私達のヴァルキリーは全て加工済みのものよ。 無加工のコアと融合した場合、大幅に姿形が変わったりはしないわ。 相応に暴力的な存在にはなるけどね。身体能力だけが大幅に向上する感じかしら。 あと、現在のヴァルキリーがどれも近代的な装いをしているのには理由があるの。 |
その方が強いからそうしてるわけ? |
ええ。どのような形を与えるかで性能は大きく変わるわ。 鉄の塊で人を殴り殺すことも充分に可能だけど、刃物の方が扱いやすいでしょ。 |
乱暴な説明だけどまあそうね…… |
ところでそろそろ区切っていい? |
いいんじゃない。 |
なら今回はこれで終了かしら。 続きは別の人に任せましょ |
二度と御免だわこの役回り…… |