「そういえば知ってる? この演習場って出るらしいわよ」 「出るって何がよ……」 「狂犬エレナ。十日前からずっとフィールド内で通り魔してるんだって」 ――あるヴァルキリー隊の噂話 --------------------------------------------------- |
今回はヴァルキリーの演習場についてよ。 |
はいはいそーですか。 このコーナーって一体いつまで続くのよ…… |
さあ? 必要がなくなるまでじゃない。 |
あっそ…… |
で、今回解説する演習場というのは各国が自国内に持つ普通の演習場のことではないわ。 |
どうせあの場外乱闘場のことでしょ…… |
ええ。軌道の法廷によって運営される常設国際演習場。 世界の三カ所に設置されたちょっと特殊な演習場よ。 |
さて、結構前の話になるけどヴァルキリーはどうすれば強くなるのかは覚えてる? |
その時に話を聞いてたのはあたしじゃなくて春風さんなんだけどね…… 訓練したり戦争したり理屈こねたりイベントだったり何もしなくてもだったり結局色々でしょ。 |
はいその通り。 |
何もしなくていい子は本当に何もしなくていいから育成はある意味凄く楽なんだけど、訓練が必要な子にはそれができる環境を与えてやらなくちゃいけないのよ。 |
でも全ての国が支配下のヴァルキリーに対して適切な環境を与えられるとは限らないわ。 あるいは与えることができても著しく効率が悪かったり。 |
極端な例だと小国家でヴァルキリーが一人しかいないとか、都市国家で場所がないとか。 |
だからといってご近所さんと共同訓練しようにも仲が悪かったりというのもあるわよね…… |
あるいは大国であっても内部で同じ面子ばかりを相手に模擬戦しても変化に乏しくていまいち効果が上がらなかったりもするわけ。 |
そういうわけで育成機会の平等化という名目で軌道の法廷が用意した場所が先述の常設国際演習場よ。 |
といっても法廷が何から何まで面倒を見てくれるというわけでもなくて、各国が適当に支配下のヴァルキリーをそこにぶちこんで殴り合わせてるだけなんだけど。 |
入れ物は用意するから後は好きにやれってこと? |
でも結構重宝されてるわよ。 ある程度までなら経験値稼ぐには悪くない場所だし。 死亡リスクもあまり無いし。 |
一応死ぬこともあるわけね…… |
そりゃ事故死の危険はあるし謀殺される可能性も皆無ではないわ。 でも深刻な事件や事故が起きた場合は法廷が念入りな調査の上で裁定するから迂闊なことはし辛いわよ。 |
……その裁定に不服を申し立ててヴァルフォースってパターンもありそうねそれ。 |
あるに決まってるでしょ。 その場合は神凪さんが出張ってくるからひっくり返すのは難しいでしょうけど。 神凪さんを倒せるんだったら演習にかこつけて悪事を働くのもありじゃないかしら。 |
それはあまりに分が悪い賭けじゃないの…… |
だからあまり変なことは起きないわけ。 |
けどその演習場って本当に役に立つわけ? まさかそこで手の内見せすぎるわけにもいかないでしょ。 |
そりゃそうよ。 だから未公開の新型とか秘蔵のエースが姿を現すことは稀よ。 逆に言えば枯れた機体とか今更隠しても仕方がないものは惜しみなく出されるわけ。 |
そんなわけで演習場には神凪さんも度々出て来るんだけど、その場合はもうちょっとしたイベント扱いよ。 神凪さんは周辺の戦域にいる全員をまとめて相手に戦い始めるもの。 |
そうなるとまあ酷いものよ。 一般的なヴァルキリー隊が神凪さんに遭遇した場合、向こうの有効射程内に入ったところで一人はまず落ちるわね。 |
で、そこから距離を詰める段階でもう二人くらい落ちて、すれ違いざまにまた二人くらいは落ちるのよ。 真正面から当たればそれだけで部隊が半壊するとか悪夢よ悪夢。 |
囲んでボコボコにはできないわけ? |
どこかで神凪さんの足を止めることさえできればいけるわよ。 問題は誰がそれをやるかなのよ。 |
要するに有効な射撃や追い込みができない子を何人集めたって無駄なわけ。 速度で振り切られたり全部最小限の動作で回避されて牽制にもならないから。 |
神凪さんみたいなのを潰すにはどうしてもエースが必要になるってことね…… |
ちなみに演習場では交戦拒否の権利があるわ。 極端な苦手意識とかトラウマ植え付けられても困るし神凪さんのような怪物級が乱入して来たら訓練中の女の子達をさっさと引き上げさせる場合も多いわよ。 |
それぞれの事情に合わせて場を上手く使えと。 |
そんなところね。 |