「いっそ爆弾型とか弾丸型ヴァルキリーでどうですかね。一人一殺でいいじゃないですか」 「それはそれでありだろうがね、品質の良い爆弾や弾丸を作れるかが問題なのだよ」 ――五里霧中の技術者達 --------------------------------------------- |
えーと確か前回は一時期変な機体が開発されていたとかそんなところで終わったのよね。 |
そうだったわね。 |
それで実際にどんな機体が生み出されたのよ。 |
色々あるんだけど、例えばねー…… |
◎ |
…… |
……何これ。 |
球体型ヴァルキリーの断面図。 |
さすがに手抜きすぎると思うんだけど。 その機体じゃなくてあんたの説明が。 |
「わかる! 世界の変態ヴァルキリー!」みたいな図鑑を用意する元気まではないから我慢しなさい。 |
でー、この機体はどうやって使われたのよ。 |
これは二層構造になっているのが特徴のヴァルキリーでねー 女の子は体育座りになって内側の球体に包まれるようになっているのよ。 |
……… |
この内側の球体は常に地面と平行に保たれるの。 そして武装が取り付けられた外側の球体は縦横自由自在に向きを変えられるってわけ。 |
武装はバージョンによって差異があったんだけど基本的には両側面の二カ所にこれまた旋回式の主砲を装備。 他にも適当にミサイルポッドを取り付けたり。 |
視界については女の子自体の感応と全周囲に取り付けられたカメラアイで確保。 |
外殻の回転速度はかなりのもので、普通の機体が急ターンするのに比べても遙かに狙いを付けるのが速かったわ。 |
飛ぶための機構はどこにあるわけ……? |
ないわよそんなもん。 なくてもヴァルキリーは飛べるもの。 ええ、飛ぶだけならね…… |
それでこの機体は強かったの。 |
……… |
……… |
ゴミに決まってるでしょ。 |
もしこの機体が強力だったのなら今頃主流になってるわよ。 なっていないのなら、それが結果を表しているわ。 |
一応聞いておくけどどこがダメだったの。 |
全部よ、全部。 |
とにかく遅くて薄くて、一瞬で被弾して一瞬で墜ちるわ、開発の起点となっていた射撃精度の向上すら全く果たされなかった始末で、完全無欠の駄っ作機だったと言われているわ。 |
ちなみにウチの国の設計局はヴァルキリーの開発に関してただでさえ出遅れ気味だったのに、一発逆転を狙って無謀な新機軸の機体を作ろうとしたせいで周回遅れにされたのよ。 |
それだけが理由でもないんだけど原因の一つであることは間違いないわ。 夢なんか見ないで地道にやってれば半周遅れくらいで済んだのかもしれないんだけど……今更言っても詮無きことよね。 |
この底抜けの失敗作はともかくとして、一時期はウチの国以外も含めて色々と奇天烈な機体が製造されたわ。 |
はあソーデスカ。 |
これらの機体に概ね共通していたのは装着時の人型を捨てるというアプローチよ。 |
女の子の手足や胴体すら分離して戦闘機や昆虫型の機体に押し込んだり。 その方がより自然に空で戦えるのではないかという考えの下にね。 |
分離とか言葉を選べばいいってもんじゃないと思うんだけど…… それって要するに首から下を切 |
余計なことは言わないの。 |
切り離した部分を培養槽で保存しておいて役目を終えた女の子の身体を元に戻すとかアフターサポート付きの場合もあるからノープロブレムよ。 |
どこがノープロブレムよサポートなかった場合はどうすんのよ! |
あまり考えたくないわね。 |
さておき変な形の機体に女の子をぶちこむという試みは全てが徒労に終わったわ。 結局どんな形状のヴァルキリーも人型を上回ることはできなかったのよ。 |
上回るどころか迫ることすらも難しかったというか全然話にならないレベル。 そういうわけで変態機開発は打ち切られて今も人型が主流のまま、と。 |
で、これはちょっと余談になるんだけど。 |
既に盛大に話が脱線してる状態な気もするし余談でもなんでも好きにしなさいよ。 |
先述の通りどこのヴァルキリー製造メーカーも一時期は人型以外の可能性を追求していたんだけど…… |
そんなの全く気にも留めなかったのが那岐島エレクトロニクスよ。 |
……? |
でも那岐島ってヴァルキリーが生まれた時から今に至るまでずっとトップメーカーでしょ。 だったら新しいものに対して尻込みすることは不自然ではないような気がするんだけど。 |
それがねー…… 漏れ伝え聞く範囲の話だと那岐島は完全に見切っていたそうなのよ。 人型以外の可能性というものを。 |
そして人型以外に手を出していた中で一番最初に手を引いたのがオルニック王立装甲錬金廠。 オルニックは国体が企業国家へと変貌するところですっぱりと開発を打ち切ったわ。 |
とはいえオルニックの方は理解できないでもないのよね。 彼らはインテグラルと行動を共にした時点で強力なアドバイスを得たのだと想像は付くから。 |
わからないのは那岐島の方なのよねー…… |
那岐島も人型以外はゴミだって誰かにこっそり吹き込まれたとかじゃないの? |
かもしれないけど真相は闇の中かしら。 |
初期に確立した優位に頼ってるだけとか、無難な機体ばかり作るとか色々言われてるけど結局侮れないのよ那岐島は。 |
要点は外さないと。 |
そういうこと。 |
企業国家最古の一つだけあってなんだかんだで都市伝説には事欠かないのよね。 中でも有名なのは那岐島のヴァルキリー関連部門はその前身を含めて八十年以上を同じ人物が率いているというものよ。 |
はぁ? |
それ宝鏡さんみたいなのじゃなくて……普通の人間が? |
そう。 プロファイルもある程度は明らかなのよ。 |
真州空軍のファイターパイロットとしてWW2.0に参加。 新大陸での航空戦で負傷してからは地上勤務へ。 |
それから数年後の終戦を契機に退役、家業である那岐島へと入社。 当時は今に比べて遙かに規模も小さかった那岐島を企業国家へと押し上げた影の立役者。 |
そしてコアがこの世に現れてからはヴァルキリーの開発とその運用を纏める立場にあったのは確実よ。 那岐島がヴァルキリーという兵器をこの世に披露した際に演壇に立っていたのはその人だもの。 |
けれど那岐島が企業国家としてより強力な存在となる中でその動向はよくわからなくなって、退場したという情報もないまま現在に至る、と。 |
もし生きているとしたら何歳ぐらいなのよ。 |
百何十歳とかになるわね。 今時の延命技術とかリブート処置を使えば第一線に留まり続けることも確かに不可能ではないけれど…… |
それにしたって滅茶苦茶でしょ。 |
だから都市伝説なわけ。 特定の永世者に強力な支援を受けているわけでもない那岐島が、ヴァルキリー関連事業に関しては今もトップの座を守り続けているという現実から生まれた真偽不明の伝説よ。 |
宝鏡さんが手を貸していたりはしないの? |
あの人はあちこちに自分の弟子とか息が掛かった人を送り込んでるけど基本的にはどこの企業国家にも肩入れはしないというスタンスの筈よ。 軌道の法廷に関してはスポンサー兼運営者の一人として激しく手も口も金も出しているようだけど。 |
はあ。 |
まあそれはいいとして……なんかもう戦術から遙かに遠い話になってきたんだけど。 |
貴女が脱線していいと言うからでしょ。 |
いや言ったけどなんであたしのせいみたいなことにされるのよ! |
なので今回はこのあたりでおしまいにしておきましょ。 |
次回はどうするのよ。 まだこの話を続けるわけ? |
気が向いたらね。 |