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「つまり形意拳こそヴァルキリー最強の戦い方と……」 「ちげえよバカ」 ――神凪アイと宝鏡メイ --------------------------------------------- |
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戦術というタイトルが付いてるからってその通りの話をするとはもう思えないんだけど。 |
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ようやくそこに気が付いたか。 |
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開き直らないでよ! |
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つーかどうしてあんたがいきなり出て来るのよ。 |
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追加講習というやつだ。 |
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あっそ…… |
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それで一体何を捕捉してくれるってわけ。 もしかして実用性の高い生き残り方でも教えてくれるのかしら? |
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ほう。 |
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もしそうならば貴様は耳を傾ける準備がある、と? |
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あるわよ? だってあたし余計なプライドなんかないもの。 先人の教えを授かるのも生き残る為には大事でしょ。 |
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だが普段の貴様は周りのスタッフに文句を言ってばかりと聞いたが…… |
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……そ、それはそれ、これはこれよ! あの人達は無茶振りとか有無を言わせない感が強すぎるから除外! |
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連中こそ虫も殺せぬような少女達を百戦錬磨の死神部隊へと鍛え上げた実績を持つトレーナーなんだがな……まあ私も噂で聞いた程度に過ぎんが。 |
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死神だなんて呼ばれたくないわよ! |
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安心しろ。 貴様も生き残り続ければいずれはそうなる。 |
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神凪を見るがいい。 奴に対する罵倒のバリエーションは両手足の指でとても数えきれるものではないぞ。 |
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うぐぐぐぐ…… |
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それはさておき本題に入ろう。 |
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好きにしなさいよ…… |
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話というのはヴァルキリーと人型の関連性についてだ。 |
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前回までの、変な機体を造ったものの結局全部ダメでしたー、のやつ? |
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ああ。 |
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で、だ……それは本当に弱かったと思うか? |
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そんなこと聞かれてもどうしろと。 あたしが自分で見たわけでもなし。 |
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でも実際に弱かったわけでしょ。 もしそれが強かったのなら確かに普及しているはずだもの。 |
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では少し聞き方を変えよう。 |
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人型以外が、人型を凌駕することはないと思うか? |
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……… |
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それについてはわからないわよ。 あたしは技術者でもないし機体の理屈なんて知らないもの。 |
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そうか。 |
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……ところが私は一つ確信をしていてな。 |
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もし互いに課せられた条件が同等であるならば、異形型は人型を確実に凌駕する。 |
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これはもう火を見るよりも明らかだ。 個と個の争いで人が怪物に敵う道理はない。 |
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……… |
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えーと、結局あんたは何が言いたいのよ。 |
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わからんか? |
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うん。 |
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……ヴァルキリーの力というのはどうにも自己認識に大きく左右される代物でな。 |
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自身が事を成せると思えば相当な無理も効くように出来ている。 |
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私がいつだかの訓練で見せたような、お前には到底不可能な技をどうして私は可能だと思う? |
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それって真面目な質問? |
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さあな。 |
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ヒントは既にあるのよね? |
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無知な貴様でも正答に至れる程度にはな。 |
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……ならちょっと待って。今考えるから。 |
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…… |
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…… |
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んー……んー、んー…… |
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わかった……と、思う。 そこまで自信があるわけでもないけど。 |
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言ってみろ。 |
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あんたは自分にそれができると誰よりも固く信じているから。 |
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……… |
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でも、それは理由の半分、外側の部分でしかない。 |
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宝鏡さんが前に言っていたもの。 極論だとヴァルキリーは武器を持たなくても力を振るえるけれど、本人の根拠無き思い込みには限界がある、って。 |
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だけどあんたは普通の機体や武器ではできないような真似もできる。 攻撃に常識外れの特性を持たせることができる。 |
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どうしてか? 残る理由の半分は、あんたは自分の扱う力が、この世に存在することが不条理な怪物達のモノだと知っていて、そのことを誰よりも固く信じているから。 |
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ここで重要なのはあんたがヴァルキリーを不条理と断じて全く認めていないという点。 ヴァルキリーを疑ってどこまでも異常と断じているからこそ、あんたは常識外れのことができる。 |
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ヴァルキリーは強力だからあってはならない。 あってはならないからヴァルキリーはどこまでも強力。 その認識こそ斑鳩セツナを一歩抜きん出たヴァルキリーたらしめるロジックよ。 |
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く、く…… |
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ああ、そうとも、正解だ! |
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それで全てというわけでもないが、その認識が私の力に大きく寄与していることは間違いないわけだ。 |
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では、それを踏まえた上で再度問おうか。 |
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人型以外が、人型を凌駕することはないと思うか? |
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……… |
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今の世界に我が物顔でのさばる永世者の内、特に屈強な連中はいずれも人外の本性を持つ。 |
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その事実こそが人は怪物には勝てんという証左だろうよ。 |
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つまり、だ…… |
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人が人であることを真に辞められるのであれば、ふざけた異形の機体を使う方が強いのさ。 |
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私も可能であればそうしたかったんだがな。 生憎と自分が人であるという認識を捨てた上で怪物になれるという根拠を確保する道筋が付けられなかった。 |
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私は自分が人であると知っている。 そして自分が怪物になりたいとも思わなかった。 |
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だが身体を捨てて真性人型の機体に収まることは可能だった。 頭さえ残っていれば人たりえるというのは現代の技術が証明しているからな。 |
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頭が残っていればいいのならやっぱり変な機体を使えば良かったんじゃないの? 多脚型の機動戦車に頭移して一体化するのは今時そこまで珍しくないじゃない。 |
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それは結局人でありながら異形を用いるだけに過ぎん。 異形を駆ってなお自分は人だと思うが故に不一致が生まれる。 最後の壁を越えるには不足だよ。 |
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高度なレベルで人機一体を実現していれば話は別だろうがな。 例えば幼少の頃から身体を失い非人型の義体に入り生涯を過ごしているか、あるいはヴィークルに心底魂を捧げたリガー野郎にもその資格はあるだろう。 |
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というわけで美澤、ここは一発気合いを入れて怪物を目指してみないか? |
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変な勧誘しないでよ! |
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ち、つまらん。 |
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では続きは次回だ。 |
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私はふざけた連中を撲滅するために戦う怪物をいつでも募集している。 その気になったら遠慮無く言ってくれ。 |
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なるか!! |