「……とりあえずわかったことがある。人間は柏木に近付き過ぎると死ぬ。これは問題だ。なあ?」 「なあ? じゃねーよ姐御! だからオレはやめようって言ったじゃんかよ!」 ――石動カズサと八重坂ミリア、撤退後の会話 --------------------------------------------- |
引き続きヴァルキリーの弱点についての話をしよう。 |
まだなんかあんの。 |
前回は例外について触れていなかったからな。 |
……例外? |
頭部を潰せばヴァルキリーは死ぬ。 たが例外というものは存在する。 |
そんなのに当てはまるのなんてロクなもんじゃなさそうだけど。 |
まあな。 |
とはいえ頭部を破壊されても死なないヴァルキリーなど多くはない。 その実例については後回しにするとしてだ…… |
ところで美澤、何故ヴァルキリーは頭部を破壊されると死ぬと思う? |
人体とは到底比較にならぬ回復力を持つヴァルキリーだ。 頭が吹き飛んだところで生きていられそうなものだがな? |
えー…… |
だってなんだかんだで頭が一番大事でしょ。 何をするにも頭で考えなくちゃいけないわけだし。 |
あとはヴァルキリーの回復力じゃ記憶とか複雑な神経の絡み付きを復元できないんじゃないの? |
概ねはそれで正しい。 |
脳の破損により記憶や人格が変質した場合に原状回復を行うとなるとこれは単純に難しいわけだ。 |
従来科学においても再生医療の進歩により身体の欠損は容易に補えるものとなったが、人格を含めての複製などは最後の難関として君臨し続けていた。 |
人類にとって最重要の機関は脳だという認識は根強い。 そこが破壊されれば生物としての死は不可避と考えるのもごく自然な事だろう。 |
その弱点を克服しようという試みはあったの? |
当然あったが実用レベルの成果には恵まれていない。 抱えている問題の質については異形型と似たところがある。 現状では第二の身体が人の範疇を逸脱しないことには始まらん。 |
となると例外ってのは…… |
その枠組みから外れたような連中だな。 |
奴をヴァルキリーと称するのは適切ではない気もするが、頭部破壊をものともしない非常識ヴァルキリーの筆頭が六堂だ。 |
あれはもう殺す手段があるのかすら疑わしい。 大元たる第六世界が存在する限りはどうにもならんな。 |
あの子は全身が反則で塗り固められてるからもうほっとくわ…… |
それが賢明だろう。 |
そして六堂以外となると次に挙げられるのはアウトランドの七姉妹だ。 |
また古い話が出てきたわね。 |
奴らは記録に残る限りでヴァルキリーの戦史上最大の戦果を上げた。 それを可能とした理由は極めて単純だ。 連中は“死ななかった”からだ。 |
はぁ? |
言葉通りの意味だ。 七姉妹は頭部を破壊されても即時再生を果たして戦闘を継続した。 |
その能力を抜きにしても七姉妹が部隊として強力だったのは事実だがな。 一般的なヴァルキリーと戦った際に七姉妹が頭部を破壊された場面は二度か三度しかない。 |
しかしどこかで人数が減っていれば歴史に残るような戦果を残してはいないだろう。 元から七人しかおらずチームワークで足りないものを埋めていたような連中だ。 |
一人でも欠ければ坂を転がり落ちるように敗北していたはずだ。 だが連中は百人のヴァルキリーを向こうに回して損害を出すこと無く戦い抜いた。 |
死なないって何なのよ…… |
屍人杖デッドマンウォーキング。 奴らに不死属性を付与したこの世で最も強力な現物の一つだ。 元の所有者はオルニックのリッチモンド卿だと聞いているがな。 |
どんな経緯かは知らんが七姉妹の一人はそれを手に入れ自分と仲間達を不死とした。 |
当時のヴァルキリー達では奴らを殺しきることが出来ず、最後には宝鏡らが出張って不死者達を始末したというのがアウトランド紛争の顛末だよ。 |
さらりと不死とか言われたけどそれ絶対におかしいでしょ。 |
おかしいな。 |
だがまあ安心しろ。 そこまでふざけた奴はそうそう現れるものでもない。 |
……と思ったが最近だと西部戦線にも一人いるか。 不死というよりは何度でも甦らされると言う方が正しいが。 |
結局いるんじゃないの…… |