「相手のお姉さんが、どんなことになっても、メイは文句を言わないのよね?」 「あーあー、構わん構わん。できるもんならやってみせい」 「本当よ? 約束よ?」 ――水無月ユーラと宝鏡メイ、試合前に --------------------------------------------- |
今回も野良ヴァルキリーの話よ。 |
はあ。 |
前回説明した通り、野良ヴァルキリーになるっていうのは結構大変なものなのよ。 |
でも一応いるところにはいるんでしょ。 |
ええ。 |
そして野良ヴァルキリーといっても色々なタイプがいたりするわけ。 |
何かの目的を持って自由行動をしているような子とか、日々追っ手に怯えて過ごす子とか、何も考えずに暴れ回る子とか。 |
いつもの面子の中で野良ヴァルキリーと言えるようなのは斑鳩さんくらい? |
そうね。 だけどあれはもう野良ヴァルキリーとしては別格の存在よ。 |
単独でメガコーポのアーコロジーに押し込み強盗したり、永世者をぶっ殺しに掛かったり、そんなことばっかり繰り返している人だから。 |
それでどうして始末されずに今も生き延びているのよあの人は。 |
理由は幾つかあるんだけど、まず単純に斑鳩さんが強すぎるのよ。 |
並のヴァルキリーじゃ何人束になって挑んだところで皆殺しにされるし、最低でも神凪さんみたいなのを連れてこないと話にならないわね。 |
で、もし神凪さんをぶつけたとしても、斑鳩さんが逃げに徹したらそれまでよ。 逃げるが勝ちとなれば間違い無くそうするし。 |
なるほど。 |
誰かが本気でやれば斑鳩さんを片付けることもできるんでしょうけど、そのために支払うコストが大きすぎて誰も率先してやろうとはしてなくて、斑鳩さんを疎ましく思っている人達も誰かやれよお前がやれよいやいや君がと押し付け合ってる感じ? |
煮え切らないわね。 |
斑鳩がそう仕向けているという面もあるがの。 時折どこぞのメガコーポに頼まれて汚れ仕事を引き受ける傭兵のような真似事もしとるからなあ…… |
あやつ、ヴァルキリーやわらわ達を消し去りたいという点を除けばポリシー皆無じゃからな。 その時その時で周りの温度を見て硬軟織り交ぜた対応をするからタチが悪いんじゃよ。 |
なんというかあたしにはとても真似できそうにないわ…… |
真似しなくていいわよそんなの。 |
まあ斑鳩さんのことは一旦脇に置くとして、普通の野良ヴァルキリーがどうすれば生き延びられるかについてなんだけど…… |
現状、最も手堅いのは低活性地帯に潜り込むことですよね? |
じゃろうな。 |
なんで? |
発見されづらいのと、そこに居る限りは脅威度が低いと見なされるからよ。 |
世の中にはヴァルキリーの居場所を精密に探索できる機体もあるんだけど、その力は低活性地帯を対象にすると効果が著しく低下するの。 |
だから低活性地帯に居れば少なくとも問答無用のサーチからは逃れられる可能性が高まるというわけ。 |
その手のサーチに元から引っ掛かりづらい隠密機を使用しているのであれば無用の心配……とまではいかなくともあまり神経質になる必要はないけどね。 |
あるいは存在希薄の異能を持っておるとかな。 |
なにその他人から無視されそうな特徴。 |
そんなのがあるんですか? |
うむ。 |
強度次第では無敵の一つじゃよ。 真正面にいても存在を認識できない敵なんて厄介でたまらんわ。 強力すぎるとそんな異能を身に付けている奴の方が不幸極まりないけどな。 |
まさかヴァルキリーになった瞬間に誰からも認識されなくなった子とかいるんじゃないでしょうね…… |
ないとは言えんのう…… |
それはまたちょっとしたホラーですね。 |
とりあえず発見されづらいという意味はわかったけど、脅威度が低いてのはどういうことよ。 |
低活性地帯だとヴァルキリーの力は著しく弱まるでしょ。 だからそこに留まっている限りはほっとかれやすかったりするわけよ。 現地当局の捜索も適当だったりするし。 |
あとは場所にもよるけど低活性地帯は年中戦争してたりどこを誰が支配しているのか曖昧だったり何かとグレーな領域が多いから潜伏先としては定番中の定番なのよ。 |
でも、そういうところで浮かず目立たず暮らしていくのってかなりハードな気がするんだけど…… |
あったりまえでしょ。 |
逃げ出した時点で口座も凍結されるわ身分証も使えなくなるわで素寒貧になるのが大半じゃからな。 |
予め抜け目なく準備しておかないと逃げた後が手詰まりになりますし、かといって下手に準備を進めてることが露見すると逃亡の恐れが濃厚ということできつくマークされたり懲罰くらいますからね。 |
結局、まともな分別がつく子なら逃げ出して野良コースを選んだりはしないのよ。 あまりにも苦労とリスクが大きすぎるもの。 |
だから美澤さんも今の居場所に我慢できなくて逃げ出す場合はせいぜい亡命コースにしておいたほうが無難よ。 |
うーん…… |
じゃあ亡命コースの場合は逃げ込む先としてどこがいいのよ。 |
……… |
……… |
どうして二人してそこで黙るわけ。 |
だって、ねえ…… |
基本的にどこもクソじゃしなあ…… |
春風さんのところとか待遇いいんじゃないの? |
うむ、ええよ? |
でもインテグラルは後から他所のヴァルキリーを受け入れた例ってほとんどありませんよね…… |
なんじゃよな。 待遇が良すぎると逃げたヴァルキリーが際限なく流れ込んじまうからの。 そうすっと余計な悶着が起きたり非難を受けるということで受け入れを制限しとるんじゃよ。 |
扱いがどこも大差ないとなれば戦争に巻き込まれやすいかどうかが判断基準になるわけで、そうすると比較的戦火とは遠い従来型の国家を選ぶのがベターな気はしますが……… |
その場合は元の所属からの引き渡し要求に対抗できるかどうかだわな。 |
小さすぎるところを選んだらヴァルフォースでの裁定戦でボロ負けして終わりですね。 |
結局ろくな選択肢がないんじゃないの。 |
うむ。 |
まー、さっきはどこもクソとは言ったが、やっぱ違いはあるもんじゃからな。 変な噂に惑わされずに自分でがっちりとリサーチすればいいんでねえか。 |
その判断をするための確かな情報を手に入れるというところからして普通の女の子には難しいような。 |
判断つかんかったらもう手近なところに飛び込んでなるようになると開き直ってればいいんじゃよ。 |
実際のところそれしかなさそうなのが悲しいわね…… |