「全部避ければ勝てるのよ。何も問題はないわ」 「お嬢、窓際でお茶しながら現実逃避気味にそういうタワゴトを言う暇があるのならこっち手伝ってください」 ――黒羽ナガレと爽涼ミサキ --------------------------------------------- |
よーし、おぬしら集合ー |
なんなの… |
なんですか。 |
呼んだ? |
うむ、呼んだぞ。 |
何か思い付いただけで招集しないでくれるかしら。 |
全くだ。 |
? ?? |
それで集合の理由はなんですか。 |
ちょっとした身上調査じゃよ。 |
おぬしら、ちょいと持ってる資格や身分証の類を全部出してみろ。 |
はあ? |
そんなこと調べてどうするの…… |
別にどうもせんよ。 あくまで話の種の一つでしかねえわ。 |
証明書を紛失していたり、すぐには照会できないようなものはどうすれば? |
そういうのは適当に書いて提出せい。 |
本人が忘れてたり知らないものは……? |
そのあたりの漏れは世界そのものの記録から引っ張るから問題なかろ。 |
そんなことできるの? |
わらわにできるわけねえじゃろ。 可能な奴から有料で買ってくるに決まっとるじゃろうが。 |
だったらあたし達にわざわざ聞かなくてもいいじゃない。 |
丸ごと買うと高くつくんじゃよ。 じゃーからほれさっさと書けい。 |
あっそ…… |
そしてこれが出来上がった調査票だよ。 |
はやい。まるで料理番組。 |
行間ひとつの間で完成しましたね。 |
うるせえわ。 |
さーて、これから適当におぬしらのあれこれを挙げていくわけじゃが…… |
住んでる国も皆違えば学校制度もバラバラですよね。 いちいち説明してたら面倒じゃないですか? |
だわな。 なのでそのあたりは適当に真州寄りに表現するぞ。 |
はいはい勝手にしなさいよ。 |
んでまずは六堂からじゃが…… |
はい。 |
………… |
「 」 |
……… |
……… |
あれ? |
ご覧の通り完全な白紙じゃ。 |
すっきりしています。 |
ある意味では完璧だな。 |
つまり六堂さんは社会制度上は存在しないことになるわけ……? |
うむ。 |
あら、まあ。 |
ちょっと待ちなさいよ。 六堂もヴァルフォースに参加している以上は何かしらの身分があるはずでしょ。 |
それがなー……ねえんじゃよ、マジで。 |
ヴァルフォース制度での登録名もミリシア教国支配下選手一号という具合じゃしの。 それは事実上六堂のことなんじゃが、果たしてそいつが一体誰なのかというのを突き詰めると誰もおらんってことになるんじゃよなー |
何せ六堂を擁する教国側が六堂の身分を用意してねえからの。 その選手一号とは何者かと尋ねても無回答じゃしな。 |
そんな状態で参加が許されるとかおかしいと思うんだけど。 |
断ったせいで腹いせに暴れられても面倒じゃろうが。 世界平和のためには適度に好き勝手やらせときゃいいんじゃよ。 |
まー、六堂は置いといて次に行くぞ。 |
……これは神凪の資料か? |
じゃな。 |
完全白紙の六堂さんよりはマシですが、これもまた随分と簡素な。 |
軌道の法廷の職員として登録されているだけで他は殆ど何も無いじゃない。 |
でも一応学生ってことにはなってない? |
それ在籍しているだけで自動的に卒業資格が貰えるって噂の法廷御用達ペーパー学校でしょ…… |
国籍欄も空白か。 生年月日は記載されているが…… 年初一日とはいかにも適当に埋めましたという雰囲気だな。 |
シンプルなのはいいこと。 |
一応法廷保護下の難民リストにも名前はあるけど…… |
これも名前しかありませんね。 一体どこの山から拾われてきたんだか。 |
あのさー、神凪さん自身は自分がどこの生まれだとかは知ってるわけ? |
うん。 わりと把握してる。 |
記憶喪失というわけでもねえからの。 じゃが神凪が自分の出自を客観的に証明する材料となると…… |
ルーツを辿れるような資料は何も無い、というわけですか。 |
うむ。 |
とはいえどれだけ社会的身分が曖昧なところで間接的にでも貴方が保護している以上は無敵の印籠を持っているも同然ですね…… |
難民スレスレのわりに実際には一番強固な後ろ盾がある、と。 |