「戦いの最中に口を開くのはバカのすること。私はやらない」 「まあおぬしは無詠唱でもぜんっぜん問題ねえからな……」 ――神凪アイと宝鏡メイ --------------------------------------------- |
さて、どこから話せばいいかしら? |
うーん……何から聞けばいいものか。 |
思い付いたものから尋ねればいいんじゃない? |
……… |
……… |
なによ。 |
いや、どうして月影さんが混ざってるのかなー、と…… |
完全に落ち着いた状態の黒羽さんと話す機会なんて滅多にないでしょ。 いつだか相性云々の話の時は人が多くてそれどころじゃなかったし。 |
私は構わないわよ。 |
はあ。 |
もし美澤さんが質問をすぐに思い付かないようなら私から聞くけどいい? |
あ、はい、どうぞ…… まさかあたしも本当に成功するとは思ってなかったし…… |
? ??? |
それじゃ早速だけど……黒羽さん、貴女の機体は劣悪で、かつ貴女自身も神凪さんほど強くもない筈のに、それでどうして戦えてるわけ? |
(ブフォッ!) |
なに吹き出してるのよ。 |
いやだってそんなストレートな…… |
率直な質問ね……… |
冷静!? |
普段こんなこと聞くなんて無理だからこの場に混ざったわけだし。 |
で、どうなのかしら? |
平均的なヴァルキリーが相手ならともかく、出来の悪い第二世代機を使っている黒羽さんが上位陣と渡り合って今のポジションを死守しているというのは相当に異常なことでしょ。 |
それ、どの口が言うの……? |
私はいいのよ別に。 黒羽さんよりちょっと下のところをうろちょろしてたまに大物食いをする程度だもの。 |
理由は色々とあるけれど……訂正や補足が必要な部分から話そうかしら。 |
まず私の機体は言うほど劣悪じゃないわよ。 |
本当に? |
ええ。ただし私が使う限りは、という条件付きで。 |
ご存知の通り私の機体、パーシャル・エクリプスは一つのコアを六分割した六発機よ。 単純な出力については様々な制約を考慮しなければいかなる現行機にも勝るわ。 |
だけどフレームの方がコアを活かしきれるだけの性能を持っていないのが問題なの。 |
例えばそうね……エンジンだけが強力で、サスペンションが無くて、座席にクッションも無くて、エアバッグも付いてない車みたいなものかしら。 |
乗り心地最悪な上にすぐ壊れそうだし事故ったら命が無いわねそれ…… |
要するにそれが私の機体なのよ。 |
やっぱり単なる欠陥機じゃ…… |
だけど私は平気なの。 多少乗り心地が悪くても気にならないし、もし事故が起きても私は頑丈だから大怪我はしないわけ。 |
黒羽さんはヴァルキリーとしての耐久性が高いってやつ? |
そう、それ。 |
にしても解せないわね…… 今年に入ってから上位陣もかなり第三世代機へのシフトが進んだでしょ? |
黒羽さんの機体にいくらパワーがあっても陳腐化は避けられないものよ。 だけど今も黒羽さんが健闘しているのは不思議なのよ。 |
こっちだって無策というわけじゃないわ。 実際、私の機体は最近も何度かアップチューンしてるもの。 |
ところで月影さんはパーシャル・エクリプスがナンバーナインでどんな扱いをされている機体か知っているかしら? |
あまり詳しいところまでは知らないわ。 異端というか外様というか本流からは外れた扱いをされていると想像は付くけど。 |
更科グループ内でエクリプスを開発していた部門が、ナンバーナイン傘下のヴァルキリー製造企業に吸収された……っていう流れでいいんだっけ? |
そうよ。 で、エクリプス開発部門を引き取ったナンバーナインが下した最初の指示は、エクリプスをダウングレードした機体の製造よ。 |
それで生まれたのが現在のパーシャル・エクリプス。 ナンバーナインとしてはエクリプスの尖った部分を削ぎ落とすことで使い勝手の良い機体が生まれることを期待したようだけど、残念ながらパーシャル・エクリプスにも欠陥は多く、ナンバーナインはそこで私達を半分見限ったのよ。 |
成る程ね。 だけどそのわりに今もアップチューンが行われているというのはどういうことかしら? |
エクリプス開発は規模を縮小して今も一応は続いているのよ。 二十人余りのメンバーを中心としてブランデル・エアロスペースの研究施設に間借りするような形でね。 |
ただし予算も殆ど付かないし台所事情は常に火の車。 私のポケットマネーを燃やしながらどうにか維持されているような状態よ。 |
だから新しいフレームを開発する余裕はなんてありはしないわ。 それでも現存の機体を調整する程度なら可能だからできる範囲での改造を施しているのよ。 |
よくやるわね…… そんな状態じゃ大したことはできないんじゃない? |
ところがそうでもないのよね。 今のメンバーはエクリプスのことなら隅々まで熟知している人達ばかりなのよ。 |
だから"私が使えればそれでいい"というのであれば、かなりの裏技も駆使した改造だってやってのけるわ。 |
その結果どうなったかは美澤さんはよく知っているんじゃないかしら。 |
ぐっ…… |
ああ、上に滞空させたレーザーを何十本も撃ち下ろしたっていうアレね……… |
……… |
宝鏡の旦那! |
なんじゃよ。 |
あいつら知恵の話なんか全然してませんぜ! 放っといていいんですかい!? |
どうでもいいと思う。 |
まあいいんでねえの…… |