「異能崩し、か。よくもまあこんなマスタープランを考えたものだね」 「お気に召さないのであれば無難なプランもご用意できますが」 「いや構わんよ。進めたまえ。グラジオラスの派生機については君の自由にすればいい」 ――那岐島長官と水蓮アザミ --------------------------------------------- |
前回はどこまで話したのかしら? |
黒羽さんの機体に関してはチームメンバーが結構無茶な改造もやらかすというところまでね。 |
なんかこれ話が脱線してない……? |
美澤さん。 |
な、なによ。 |
ヴァルキリーの世界で生き残りたければ細かい事を棚上げするのも重要なスキルよ? |
あ、はい、わかりました…… |
神凪の旦那! なんか美澤のやつが黒羽に何か言われてびびってますぜ! |
黒羽さんが微笑んでいるからだと思う…… 慈悲スマイルの黒羽さんなんて滅多に見たことないから確かにこわい。 |
なるほど。 普段はせいぜいサディスティックスマイルしかしないもんね! |
おぬしら結構ひでえこと言ってねえか? |
更に話を脱線させることになりそうで悪いんだけど…… そもそもナンバーナインが更科航空宇宙研を引き取った理由や経緯って一体どうなってるのよ。 |
脱線というかおもっくそ後進してから路線切替までするような質問ねそれ…… |
表沙汰になっている部分ではどのくらいまで知ってる? |
法廷で更科への制裁が決議されてからすぐさまナンバーナインが更科研を強襲制圧して、その後に更科グループが完全解体された時には更科研の全てがナンバーナインの物となることが決定した、というあたりまでは。 |
表沙汰になっていない部分は? |
更科研にはナンバーナインに半歩遅れてインテグラルが"まともな"ヴァルキリー隊を送り込んだとは聞いてるわね。 |
で、タッチの差で現場を先に押さえていたナンバーナインのヴァルキリー隊と三日三晩の睨み合い。 結局はインテグラル側が折れて撤収したそうだけど。 |
であればその質問については私が知っていることも月影さんと大差ないわ。 |
つまり私も知らないのよ。 ナンバーナインがどうして更科研を欲しがったのかは。 |
更科研の人員や技術が単純に欲しかったという線は? |
朱紅あたりならともかくナンバーナインが更科を吸収することに大したメリットはなかった筈なのよ。 他所に渡さない為に自分で押さえてそのまま潰したという可能性は無きにしも非ずだけど…… |
あるいは大問題を起こしたエクリプスを過大に評価していてとにかく手に入れたかったとかは? |
それもありえなくはなさそうね…… |
さあ、どうかしら。 |
……… |
……… |
あのひとたち何ゆってんの? 意味がわからないんだけど…… |
だいじょうぶ。 私もわからない。 |
ところでエクリプスといえば他にも気になる点があるのよね。 |
どんなこと? |
そもども、どうして高機動系の機体として作られたのよ。 |
パワーが有り余っているのならもう少し上手い使い方はあったんじゃないの? 何もわざわざ機動に偏らせて防御を疎かにしなくてもいいじゃない。 |
そこは話すと長いのよね…… |
そのあたりは以前に宝鏡さんに少し聞いたような…… |
大前提として、私達は別に強いヴァルキリーを作りたかったわけじゃないの。 必要としたのはとにかく強力で、強力で、強力なエンジンよ。 |
そして更科がいくら同族系のメガコーポであっても無尽蔵にお金を使えるわけではないし、プロジェクトを行う以上は何らかの成果物を以て有用性を証明しなければいけなかったわけ。 |
だから間に合わせのフレームと武装を組み合わせて突貫工事で機体を作ったのよ。 |
とにかく人手と暇が足りなかったの。 プロジェクトの性質上、中核メンバーの増員は難しくて、面倒な横槍が入る前に機体という目に見える成果をさっさと出さなければいけなかったから。 |
つまり様々な制約によりコアとフレームを上手く摺り合わせたバランスの良い機体なんて作りようがなかった、と…… |
ええ。 |
だとしても低速度重装甲という路線にならなかったのは何故? |
それはエクリプスのコアユニットがそういうモノだったから、としか言いようがないわね。 力と速度によるブレイクスルーを至上命題として造られたコアだから、その存在意義に背くようなフレームを被せたら一層バランスを欠くか劣化するのは確実よ。 |
なんというかまあ他所様は面倒なことを考えて機体を開発してるのねえ…… うちなんてヴァルキリーも戦車も似たような扱いでズルズルと行っちゃったもの。 |
そんなことだからカルディヤ連邦はヴァルキリー開発で周回遅れにされたのよ。 百年前の工業製品を製造するのと同じメンタリティーでヴァルキリーを造っても上手くいくわけないでしょ。 |
……… |
……… |
ZZzz....... |
ついに寝てしまった。 |