「まずは形から入れ。恥じらいを捨てろ。いいか美澤、次の試合では必殺技を使うんだ」 「はあああああああああああああ?」 ――美澤エレナとトレーナー --------------------------------------------- |
はいみんな集合ー! |
どうしたの。 |
何の用よ…… |
呼んだか? |
どーせまーたくっだらないことでしょ…… |
春風さんの用事でくだらなくなかった試しがない。 |
ひどい言い草だなキミは! |
だから何の用よ。 |
じゃあ本題に入るよー |
あーはいはい。 |
………みんなって何か必殺技ある? |
はあ? |
だーから必殺技だってば。 相手を一発で倒しちゃうようなすっごいやつ。 |
あんたねー…… |
そんな都合のいいもんがホイホイあるとでも思うわけ? |
ねえ? |
……… |
……… |
……… |
……… |
そこでどうしてあんたら皆黙るのよ。 |
そーりゃ、こやつら全員えげつねえモノを持ってるからに決まっとるわ。 |
じゃろ? |
まあ、無いとは言いませんが。 |
同じく。 |
それなりにはな。 |
一括りにしないでほしい。私はない。 |
おぬしはんなもん無くともモンスターじゃからどうでもええわい。 |
なーんだ。 結局みんな何かしら持ってるんじゃん。 |
そりゃあな。 おぬしや美澤のようなルーキーならいざ知らず、ある程度のキャリアを積んだ連中は何かしらの隠し球を持っとるのが普通じゃよ。 |
なら、そういうのって具体的にどんなのよ。 まさか必殺技の名前を叫んでドカーンとでもやるわけ? |
バカじゃないの? そんな恥ずかしいことするわけないでしょ。 |
ボクはしたいです! |
美澤さんにとって必殺技のイメージがそういうものであれば、美澤さんは思う存分それをやればいいんじゃない? |
やりたくないわよ! |
やりたくないからこそ、まさかそうであって欲しくない、と? |
当然でしょ。 |
えー、かっこいいじゃーん。 |
といってもなあ……羞恥心よりも命の方が大事じゃろ? |
そ、それは、まあ…… |
必殺技の名前ひとつ叫べば生き残ることができるのならば安いもんじゃろ? |
美澤さんは最後にはプライドより実益を取りますからね。 追い詰められたらやるでしょうね。 |
いやだからどうして技の名前を叫ぶのが前提になってるのよ!? ヴァルキリーの必殺技って本当にそういうものなのかを聞いてるんだってば! |
実際のところどうなんですかい宝鏡の旦那! |
どうなんですか? |
んぁー、そうさなー………ここで事実を教えていいものかどうか…… |
こんな程度のことでいちいち焦らす必要もないだろうが…… さっさと美澤に無慈悲な現実というものを教えてやれ。 |
んじゃ結論からずぱっといくか。 |
……… |
……… |
ごくり。 |
ヴァルキリーが必殺技を使う際に技の名前を叫ぶ必要があるかないかについては――― |
人による。以上じゃ。 |
だな。 |
知ってた。 |
ああ、やっぱりそうですか。 黒羽さんもさっき叫ばないと言ってましたしねえ。 |
叫んだ方がいい奴もいれば、んなもん不要な奴もおる。 人によって様々じゃよ。 |
そこの春風なんぞは確実に叫ぶことで効果が割り増しになるタイプだわな。 ヴァルキリーの必殺技とはそういうものだと頭から決めつけて疑わんバカは間違いなくそうなるわ。 |
えへへ。 |
なんて嬉しそうな顔を。 |
一方、ヴァルキリーを純粋に単なる道具と見ており、いちいち叫ぶなど愚の骨頂と切って捨てとるような奴は、叫んだところで大した効果など得られんわ。 |
その代わりに何をするにしても安定した効果を得ることができるわけじゃ。 まー、大半のヴァルキリーはこっちのタイプよ。 黒羽も月影も神凪もそうじゃしの。 |
……あれ? じゃあ斑鳩さんは違うの? |
……… |
そやつはハイブリッド型じゃよ。 スタンスとしては黒羽達の同類じゃろうが斑鳩は色々と知りすぎておる。 切羽詰まったら確実に誓句や詠唱でえげつないブーストを掛けるじゃろうよ。 |
ああ使うさ。 貴様らのような怪物どもを相手に手段を選んでなどいられるか。 |
ほう、ほう、ほーう…… つまり斑鳩さんの必殺技の名前はすっごく長ったらしいってことだね? |
いや、それは何か違うと思う…… |
で、結局美澤さんはどういうタイプなんですか? |
もう答えは出とるも同然じゃろ……… |
必殺技と聞いて、叫ばなくちゃいかんのかとぱっと思い付いてしまう時点で、なあ? |
あーあ……… |
けど春風さんとは違って、美澤さんはそういうのを嫌がってるようですけど、それでもシャウト派になるものなんですか? |
なんじゃよシャウト派って。 まあその呼び方でもええけどよ。 |
便宜上ということで。 |
んで叫ぶのが嫌なのにどうして効果があるのかといえば、嫌なことをするからじゃよ。 精神的な苦痛は時として大きな力に転換されるからの。 |
けど何度も叫んでいれば慣れてしまうのでは…… |
そうじゃな。 慣れることで痛みは失われる。 よってそこから力も生まれなくなる。 |
じゃが繰り返している内に叫ぶことがしっくり来るようになる。 あまつさえ快感を覚えてしまったりもするわけじゃ。 |
そうなればもうしめたものよ。 春風のような天然シャウト派と遜色の無いレベルに達するわけじゃ。 |
なんか頭が痛くなってきましたよ私は。 |
だけどその場合は非シャウト派としての特性はどうなるんですか? |
やり過ぎは禁物じゃが程々にしておけばメリットだけが残る。 つまりは両方の特性を兼ね備えたハイブリッド型になるというわけじゃ。 |
おいしいとこ取りですか。 いいですねえ。 |
ええじゃろ? おぬしも目指してみるか? |
目指しません。 |