「失敗したって、明日死ぬのが今日死ぬことになるだけよっ……!」 ――美澤エレナ、頭に指先を添え |
今回はヴァルキリーの裏切りについて話すか。 |
そんなことがあるの? |
当たり前じゃろ。 ま、ここで言う裏切りとは敵前逃亡などの類も含むが。 |
年頃の娘を戦場に向かわせるとなればそこには様々な困難がある。 まともに戦わせるだけでも一苦労じゃよ。 |
そんなの一から厳しく教育すればいいんじゃないの? 人格を一度を叩き壊してから作り直すくらいの勢いで。 |
結構おぬしも酷いことを言うのう。 |
台本にそう書いてあるからねー |
そうか。 ならば仕方ないな。 |
で、厳しく教育、もとい洗脳するというのは当然有効な手段の一つよな。 自由意思を剥奪してしまえば無茶な命令もし放題じゃしの。 |
そして最大のメリットは育成が楽なことよ。 洗脳の手法なんぞ既に確立されて久しいからの。 |
じゃあ、どこもそういうことばっかりしてるの? |
初期の頃はそれが主流じゃった。 ところが近年はそうとも限らん。 |
どうしてさ。 |
無茶な人格改造を施された娘は比較的弱いという事実が判明したからよ。 |
えー? 何それ。 |
何それと言われてもな…… 事実なのだから仕方がなかろう。 |
だいたいどれくらい弱くなるわけ? |
ワンランクは確実に落ちるかの。 加えて伸びしろが失われる可能性も高い。 |
ヴァルキリーを数十人育てれば、その中から一人か二人はトップエースと呼ばれるような娘が育つのじゃが……無茶な教育をすると強力な個体の出現が殆ど望めなくなるのじゃよ。 |
へー…… |
素質者に対して手堅く洗脳教育を施すか、それとも元の人格を温存してエースに育てることを目指すかはお国柄次第じゃの。 |
そしてここからが今回の本題よ。 |
本題? |
つまり命令に逆らったり裏切る可能性もある娘達をどのように制御するかということじゃ。 |
過酷な日々に嫌気がさして機体ごと亡命したり、買収されて試合でわざと負けたり、あるいは戦場での敵前逃亡を防ぐにはどうすれば良いと思う? |
うーん…… |
人質を取る、報酬で繋ぎ止める、色仕掛けで情に訴える……どれもそれなりに効果はある。 だが結論を言ってしまえば万能の対策など存在せん。 |
どこがウィークポイントかは人それぞれだもんねー |
過激な手段としては脳内爆弾を埋め込むというのもあるな。 リスクは大きいが効果は抜群じゃよ。 |
裏切ったらドカン? |
うむ。 |
そんなの埋め込まれたら反発するんじゃないの? |
だからリスクが大きいわけじゃよ。 恐怖で従わせるというのは洗脳に次いで手っ取り早い方法だが、枷が外れた時に問題が噴出するからの。 |
でもさー、今時脳内爆弾とかナンセンスじゃない? 遅効性の毒物を仕込むとか血中にナノマシン混ぜるとかのほうがスマートだと思うんだけど。 |
春風の分際でしょーもないことに気を回すのう。 |
台本にそう書いてあるからねー |
うむ、わかっておる。 |
で……一般的な毒物やナノマシンは予め体内に仕込んでおいたところでヴァルキリーを死に至らしめるには少々力不足なのじゃよ。 ヴァルキリーの回復力や免疫機能によってほぼ無力化されるからの。 結局のところ物理的に脳を瞬時に破壊するしかなくてな。 |
お腹に爆弾入れるのはダメ? |
腹ではダメじゃの。 ちょっと根性がある娘なら自力で抉り出すぞ。 多少腹の中がズタズタになったところですぐに回復するからな。 |
それって根…性…? |
しかし頭蓋骨の中ならばそうそう抉り出すことなどできん。 手元が狂えば普通に即死するからの。 |
なるほどねー |
ちなみに六堂あたりは、死どころか全身が消滅しても瞬時に復活するじゃろ。 第六世界の使い手は羽と命を交換可能じゃからな。 |
なにそれこわい。 |
強力な現物などそんなものよ。 |
さて、話が脱線してきたから今回はこれで終わりとするか。 |
おつかれさまー。 |