「むぎゅう」 ――春風レン、神凪アイに敗れ |
今回は春風について話すぞ。 |
はいはい。 あのマイペースな子ね。 |
あやつはなー…… 才能が服着て歩いているとでも言えばいいのかのう。 |
具体的にはどのへんが凄いのよ。 |
例えばな…… おぬしは初めて装備を使った時はどんな具合じゃったよ? |
やり方覚えながら慣らしていったけど…… |
春風の場合は慣らすもクソもなかったそうじゃ。 直感的に扱い方を把握し、最初から自在に動き回ったと聞いておる。 |
何よその適応力…… |
ヴァルキリーとしてのあやつに努力という言葉はない。 常人と比較するとおよそ百倍の効率で強くなるからの。 |
いやいやいや百倍っていくらなんでもないでしょ。 |
だいたいそのくらいだと思うんじゃよなー 春風の成長特性はもはや異能と呼んでもおかしくないからのう…… |
異能? |
素質者の娘どもの中でも限られた者だけが保有する極端な特徴のことよ。 これを備えている娘は異能持ちと呼ばれるわけじゃ。 |
ちなみにおぬしにはない。 |
ほっといてよ。 |
その代わりおぬしには根性があるじゃろ。 人としてはそっちのほうが汎用的に役立つぞ。 よかったな。 |
はいはいそーですか。 |
まあ異能は先天的なものばかりではないからの。 後天的に得る場合もある。 |
神凪の未来視もあやつに最近備わった能力でな。 一瞬先までしか見通せないようじゃが、それでも効果は抜群よ。 現時点で神凪と五分に戦えるのは同じ能力を持つ斑鳩くらいじゃしの。 |
じゃあ春風さんの異能はなんなの。 |
まず一つはさっきも言った通り、その成長特性よ。 春風は一度楽しく試合をするだけで露骨に強くなる。 経験を積めば強くなるタイプ自体は珍しくないが、春風ほど極端なのは滅多におらん。 |
そしてもう一つは……まあ今度な。 この手の話は長くなるからの。 |
はいはい。 |
ともあれ春風はヴァルキリーとして訓練する必要がほとんどない。 試合しかやらんので軍事教育の必要もない。 一般人上がりとしては最も恵まれているわな。 |
嫉妬の炎で焼き尽くしたくなるわね。 |
では普通のヴァルキリーが訓練するような時間で春風が何をしているかといえば、歌って踊るアイドル活動よ。 |
本当にやってるんだ…… |
興行色の強い試合だと開始前に歌ったりするからな。 |
頭おかしいんじゃないの。 |
そういうプロデュースをされているのだから仕方なかろうよ。 まあ春風自身も楽しんでやっとるようじゃが…… |
とはいえアイドル業しとるからって試合の勝ち負けなんぞどうでもいいというわけにはいかん。 機体のセールスのためにもきっちり勝つことを求められることに変わりはない。 現時点では春風が装備しとるような第三世代機は、市場の信頼を勝ちとっておらんからの。 |
本人はそんな事情とかプレッシャーとかお構いなしでしょうけどね…… |
うむ、お構いなしじゃな。 あやつはとにかく自分が楽しいかどうかしか考えてないわ。 |