「奴は私にとっての天敵だな。避けて通るしかあるまい」 ――斑鳩セツナ、六堂マリアの戦いを眺め |
今回も異能についてじゃ。 |
この話題も結構続きますね。 内容は前回の最後からそのまま続くんですか? |
んにゃ、少し巻き戻すわ。 確か前々回に春風のもう一つの異能について話しかけたじゃろ。 今回はそこからな。 |
まあどこからでもいいですけど。 |
それで春風の二つめの異能についてじゃが…… |
あやつには強さの上限が多分ねえわ。 いわゆる無限成長持ちじゃよ。 |
つまりいくらでも強くなれる、と? |
まあそうじゃな。 異能の格と希少性は中の下というところかのー |
中の下…… 随分と裏がありそうですねそれ。 |
うむ。 春風が無限成長を保有していようが、実際に際限なく強くなることはおそらくない。 |
仮に春風が何度も愉快に試合をこなして強くなっていったとしよう。 そうするといつか春風は最強となるわけじゃ。 |
それは即ち春風が愉快に戦える相手が誰もいなくなることを意味する。 あやつは格下を相手にしても楽しいとは思わぬからな。 |
春風さんみたいな人が何人もいたらどうですかね。 |
同じ面子とばかり戦っても飽きるじゃろ。 |
確かに。 |
実際に限りなく強くなれるような条件を満たせる奴なんぞ殆どおらん。 無限成長が中の下に位置付けられているのはそういう理由よ。 よほど好条件の成長特性がなくば宝の持ち腐れというわけじゃ。 |
では条件整えて手が付けられないほど強くなった例はあるのでしょうか。 |
ある。 太古の時代にただ一人、それを実現した者がいた。 |
一体どうやって…… |
そやつは呪いにも等しい成長特性を備えていた。 あとはちょっとした倍々ゲームをしただけよ。 最後は凄まじい数字になっていたがな…… |
ああ…… だいたい想像が付きました。 |
随分と察しがいいのう。 |
私も色々な子を見てきましたので。 |
それで、その人は結局どうなったのでしょう。 |
第六世界の使い手に戦いを挑んで死んでもうたわ。 しかし敗れたとはいえ大半の羽を叩き壊すという偉業を成し遂げた。 そやつはフルスペックの第六世界と五分に渡り合った唯一の人間じゃな。 |
あの羽って壊れるんですか。 |
うむ。 |
とりあえず昔の話は一旦脇に置くとして、他の娘どもの異能についてじゃがな…… ああ、おぬしも美澤と同じで何もないぞ。 |
でしょうねえ。 |
その代わりおぬしには常識や忍耐、高度な職業知識があるじゃろ。 人としてはそっちのほうが役立つぞ。 よかったな。 |
それが取り柄ですからね。 |
うむ…… 強いヴァルキリーの大半は社会不適合者か精神異常者か度を超したバカじゃしの。 |
そして神凪や春風と並び立つバカ三巨頭の一人、六堂についてじゃが…… あやつはまず第六世界を使えるというのが異能じゃな。 |
あとは高レベルの精神汚染耐性も備えておる。 第六世界を使ってるわりには気がふれとる様子もないしの。 とはいえ強すぎる耐性故に特殊な性格に育ってしまってはおるが。 |
といいますと。 |
六堂は随分と浮世離れしとるじゃろ? |
ですねえ。 |
強すぎる耐性は通常の精神的成長や知識の獲得を妨げるんじゃよ。 異能というフィルターを通すことで外部から受ける刺激が変質してしまうからな。 |
まー、性格を歪めるほどの耐性だけあって効果のそのものは一級品じゃよ。 おそらく六堂には幻術や精神介入の類は一切通じぬぞ。 今時のヴァルキリーでんなもん使う奴なんぞ滅多におらぬが。 |
そういえば神凪さんや斑鳩さんの未来視はどの程度の希少性なのでしょう。 |
実のところ未来視そのものはさほど珍しくはない。 戦う者達が後天的に獲得し易い異能の筆頭じゃからな。 |
ということは貴女も持っていたりするのですか? |
持っとらんよ。 必ずしも身に付くわけではないからの。 |
意外ですね。 |
まあ問題はない。 対抗手段は持っておるからな。 |
対抗手段があるんですか。 |
でなくば今日まで生き残ってはいられぬよ。 |