「……いい加減にお嬢って呼ぶのはやめて」 ――黒羽ナガレ、古参のスタッフ達に向かい |
今回は黒羽さんについて? |
うむ。 |
黒羽はなー…… あやつについての説明はめんどくさいんじゃよな。 |
この際だからおぬしが知りたいところから話してやろうと思うが、何かあるかの? |
そういうことなら……まずは機体について? 黒羽さんの機体って欠陥機だの言われてるけど実際のところはどうなのよ。 |
まあ欠点だらけじゃしのう…… 武装は洗練されとらんし防御も薄い、機動力はあれど制御が難しいからな。 現状、黒羽以外に扱える者がロクにおらん。 |
そして設計面に関しては凄まじく前のめりな技術が採用されておる。 何せ脅威の六発機じゃからな。 |
六発機…… |
ちなみに初期型は八発じゃった。 一度致命的な事故に見舞われてから六発で再設計が行われておる。 |
致命的な事故って…… 使い手が負荷に耐えかねて死んじゃったとか? |
いや、コアの大暴走じゃ。 周囲の全てが消滅するという大惨事よ。 |
この事故について詳しく説明を始めると長くなるから端折るぞ。 何せ一連の騒動でメガコーポ一つが解体されるに至った事件じゃからの。 |
確かにそれは長そうね…… |
でな、その時に責任押し付けられたり槍玉に挙げられたのが機体設計者たる黒羽の兄貴よ。 |
お兄さんいたんだ。 いいわねー |
なんじゃ、羨ましいのか? |
うん、少し。 頼れるお兄さんとかお姉さんとかよくない? |
おぬしは頼れる相手に全然恵まれてなさそうじゃもんなー どうせ子供の頃からひとりでできるもんって無理してたタイプじゃろ。 |
はいはいその通りよ。 あたしのことはいいから話を元に戻しなさいよ。 |
そうじゃな。 んで黒羽の兄貴はのう…… ここ半世紀の中では最も見込みのある弟子じゃったな。 |
知り合いなんだ。 弟子だなんてそれはまた随分と深い関係ね。 |
そこまで熱心に面倒を見たわけでもないがの。 わらわの玩具を作るのを手伝わせる代わりにアドバイスを与えたりな。 黒羽も本来はなかなか頭の巡りが良い方じゃが、兄貴はその遙か上を行っていたわ。 |
そのお兄さんって今はどうしてるの? |
睡眠薬の過剰摂取で死んどるよ。 事故死か、自殺か、あるいは他殺か、真相は今に至るまで判明しとらん。 わらわも結構調べたんじゃが他人の庭で起きた出来事だけに調査しきれんかったわ。 |
いずれにせよ汚名着せられたまま死んだってことよね。 |
そういうことじゃな。 |
つまり黒羽さんがやたら気合い入れて戦ってるのはそれが原因なわけ? |
おそらく始まりはそうじゃろう。 しかしなあ…… |
なによ? |
もうあやつはそんなこと忘れとるんじゃないか? |