「一人か二人は殺さずに残せ。裁かれる者も必要だからの」 ――或る永世者、七姉妹の討伐に臨み |
今回は引き続き七姉妹についてよ。 |
……… |
春風さんは寝ちゃったから聞き役は美澤さんになりました。 |
とんだとばっちりだわ…… |
ところで美澤さんは件の紛争の顛末については知っているのかしら? |
一応ね…… |
さすが春風さんとは違うわねー |
いいから早く話を進めたら。 |
そうね。 |
まずドンパチ面についてだけど、七姉妹は最初の数ヶ月で三回の大きな戦いを乗り越えたわ。 一度目は中央政府による攻勢で、二度目と三度目は周辺国によるドサクサ紛れの侵攻よ。 いずれも二十人前後のヴァルキリー隊を送り込んだけど、七姉妹のうち一人も撃墜できずに撤退しているわ。 |
ほぼ三倍の数を相手にして損耗無しって凄いわね…… |
一度だけなら偶然かもしれないけれど、二度三度と続けば必然よ。 それを可能とした一番の理由は彼女達がとびきり強力な現物を一つ保有していたからだけど。 |
前回言ってた杖でどうこうってやつ? |
そうよ。 |
ともあれ七姉妹は三度に渡る大規模な攻勢を凌ぎ、迂闊に手を出しても損害が増えるだけだと周囲に理解させたわけ。 実際にそれから一年余りは大した戦闘が起こることはなかったわ。 |
束の間の平和ということね。 |
で、戦闘に関しては七姉妹が行えばいいんだけど…… 戦うだけで国が回れば苦労はしないわ。 当たり前のことだけど金が必要なのよお金が。 |
どうやって調達したのよ。 |
将来への空手形を乱発して調達したに決まってるじゃない。 あとは彼女達が所有していた現物を担保に入れたりね…… |
貸す方も貸す方ね…… 回収できる見込みがあったとは思えないんだけど。 |
九割方潰れると予想されても、当たれば相応のリターンが見込めるならメガコーポの金融部門が貸してくれるわよ。 連中はそういう危ない案件を掻き集めて、期待値で勝負できる体力があるもの。 |
で、自治州側が調達した資金のうちかなりの部分が宣伝工作費としてぶち込まれたわ。 彼らに雇われた広告代理店が提案したヴァルキリー・プランという名の計画に基づいてね。 |
何よそれ。 |
自治州側は世間の耳目を集めるために、少女達による戦争という構図を売り込みまくったのよ。 七姉妹のリーダーをトップに据えて独立宣言を読み上げさせたのもその一環ね。 |
頭おかしいんじゃないの。 |
戦略としては正しかったと思うわよ。 当時はヴァルフォースなんてものはなかったし、ヴァルキリーに関する情報もさほど公開されていなかったわ。 だから特殊な力を持った少女達の実像がわかるとなれば、それだけで一定の興味を引くことができたのよ。 |
ま、その試みはある程度成功したんだけど…… |
……… |
途中経過を詳細に話すと時間がいくらあっても足りないから端折っていいかしら? |
いいんじゃない。 毎度のことだし。 |
じゃあそうしましょ。 |
そして蜂起から二年後。 件の自治州はめでたく、世界中から無法国家の類と見なされるようになったのよ。 |
端折っていいとは言ったけどいきなりぶっ飛びすぎでしょ! 何がどうしてそうなったのよ! |
なるようにしてなったとしか言いようがないわねー そもそも彼女達の戦争には時間制限があったのよ。 その期限が近付いてきたことに焦り、周辺諸国に対して露骨な脅迫を仕掛けたことが致命的な失点に繋がったわけ。 |
時間制限……? |
ヴァルキリーが力を維持できるのはせいぜい数年でしょ。 |
あー…… つまり七姉妹の武力に頼り切った戦争だから、彼女達のうち数人が力を失った瞬間に敗戦が確定する、と…… |
そういうことよ。 それで力がある内に自分たちの要求を通そうと無茶したせいで、世界中から敵視されるハメになったのよ。 一応他にも理由はあるんだけどね…… |
さて、長くなってきたから今回はここまでよ。 七姉妹については次回で最後かしら。 |
今回で終わりじゃなかったの? |
予定通りに行くとは限らないわよ。 |