「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん………うわ、すっご……」 ――春風レン、預金残高を眺め |
第四回、始めるわよ。 |
……… |
始めるわよ? |
ねえ。 |
どうしたの。 |
何平然とした顔で始めようとしてるのよ! 私達前にも出たばっかりじゃない! どうしてまたこんなことしなくちゃいけないわけ!? |
人手不足だからよ。 |
だいたいここまでの流れから考えて今回は六堂さんとか神凪さんの順番でしょ。 |
いい? 人には向き不向きっていうものがあるの。 あの娘達はこういうお話には向かないの。 わかるでしょ? |
そりゃわかるけど……。 |
だから諦めなさい。 今日この時この場所にいた不幸を呪うことね。 |
今回はヴァルキリーの待遇についてよ。 |
はいはい待遇、待遇ね。 もう勝手にしてちょうだい。 |
さて、ヴァルキリーの待遇は国や企業によって結構違ったりするんだけど、とりあえずはヴァルフォース批准国をベースに説明するわ。 素質の有無は概ね思春期以降に判明します。 が、幼少から素質を認められる例もあるので生後は毎年検査するのが普通ね。 天才児は特別扱いの英才教育を施されるけど……、一般的な娘は突然素質者として扱われるの。 |
まずは本人に知らせるの? |
ケースバイケースよ。素質があると発覚した時点で、その娘は身辺を徹底的に洗われるわ。 まず本人に通告するか、あるいは家族か、そのあたりも個々の事情次第かしら。 素質者が留学生だとか多重国籍だとか親族が有力者だとか、そういう場合は帰属先や扱いを巡って面倒なことにもなるし。 検査機関等に内通者がいて、情報を他国に売り渡したりしていると拉致に発展するケースもあるわねー |
うええ。 |
ともあれ素質者であると通告された娘やその家族は決断を迫られるのよ。 ヴァルキリー候補生になるか否かをね。 |
選択の余地があるの? |
一応はね。 拒否権が制度上存在するだけで、事実上選択の余地がないところも当然あるわよ。 |
そんなもんよね…… |
ただ、候補生になるといってもその形態は様々よ。 国によってはかなり柔軟な対応がされているわ。 ヴァルキリーの有効稼働のためには精神的な負荷を掛けないほうがいいし。 |
バランスは大切と。 |
ええ。まずヴァルキリーとその候補生には二種類あるのよ。 完全な軍人として有事にも対応するか、それともヴァルフォースにのみ従事するか。 あとはそれまでの生活をどこまで維持するかも重要ね。 |
年齢層からすると学生がほとんどどよね? |
批准国だと就学しながらヴァルキリーとして活動している者が半分くらいかしら。 |
案外多いわね……ところで給料とかは出るの。 |
出るわよ。それもべらぼうな額が。 ヴァルフォースで連戦連勝すればもうがっぽがっぽよ? 私はそうでもないけど。 有事対応も行うのなら当然他にも特典が付くわね。 |
でも命の危険が少なくて済むのならヴァルフォースだけで済ませたいと皆思うんじゃない? |
まあね。けど、対面というものもあるでしょ。 ヴァルフォースでいくら輝かしい戦績があっても、いざという時に命を投げ出せないのであれば非難は免れないわ。 だからどのヴァルキリーが有事対応を行うかは秘匿されるケースも多いの。 表舞台で顔の売れているヴァルキリーといえど、有事に戦うかどうかは蓋を開けてみるまでは案外わからないのよ。 だからこそ実戦を経たヴァルキリーの人気は凄まじいわ。 |
人気って……なんだかタレントじみてない? |
タレントのようなものよ。 基本的に全員美女なのがそれに拍車をかけてるわ。 |
まさか歌って踊る人とかも…… |
いないとでも思う? |
いるわけね…… |
あたりまえでしょ。 |
ところで学生生活を続けるようなアルバイトヴァルキリーは戦力としてどうなのよ。 |
そこなんだけどねー ヴァルキリーとしての素質は訓練でそうそう伸びるものじゃないし。 だから試合に関してはフルタイムヴァルキリーに比べて大して不利でもないわ。 |
じゃあ神凪さんとかいっつも訓練してるみたいだけど、そういうのは無駄なわけ? |
無駄じゃないわよ。 同等の相手と戦った時、やっぱりものを言うのは技術だったりするし。 |
それはそうね。 |
それにあの子は、訓練で強くなるタイプだから。 どうすれば強くなるかは人それぞれなのよ。 例えば「プロデューサーさんのために頑張ります!」と頬を染めた翌日から怪物にとなった子もいるし。 |
なによプロデューサーって。 |
気にしちゃだめよ。 |
あっそ。 |
ちなみにアルバイトヴァルキリーであろうと生活はかなり変わるわよ。 警護という名の監視やら何やらでどーしても制約が付くもの。 ヴァルキリーの家族も大変よ。彼らにも当然警護が付くわ。 本人の意向次第で目立たぬようにしたり周囲には秘密にしてもらえたりもするけど。 |
思い詰めた末に、私は死んだことにしてもらえませんか、と希望する娘もいるわねー そんな場合は当局の方々が必死に偽装工作をするのよ。 |
いっそ開き直ってしまったほうが楽そうね……。 |
ええ。そういう子は歌って踊るヴァルキリーになるわけ。 引退後は普通に歌手やら女優やらモデルやらをしている娘も多いわよ? 素材の良さは折り紙付きだし、既に顔も売れているから悪くない商材よ。 企業所属ならそのまま広告塔として活動したりね。 |
他には本でも書いたり? |
そうね。といってもどれも中身は似たようなものだから最近は飽きられ気味だけど。 引退したヴァルキリーのもう一つの王道は、軍にそのまま残ってから退役して政界入りというパターンね。 |
そんなの絶対にごめんだわ…… |
ともあれヴァルキリーになるというのは基本的に過酷な道よ。 国の面子と利益と、そして自分と周囲の人達の命を賭けて戦うことになるかもしれないんだから。 そして大概のヴァルキリーは未熟な内にその決断を迫られるのよ。 |
悩み始めたらきりがないわね。 |
そうねー |
ねー… |