「あなた方、全員、地獄に落ちればよろしいのですわ」 ――七姉妹の一人、法廷にて |
七姉妹については今回で最後よ。 |
えーと、彼女達が世界中から敵視されるようになった、というところから? |
そうよー 件の自治州に対しては何をしても構わないという合意が形成され、多数の国とメガコーポが彼女達を袋叩きにする段取りを整え始めたのよ。 その結果、七姉妹を討伐するために百人近くのヴァルキリーが派遣されたわ。 |
いやいやいや百人っていくらなんでも多過ぎでしょ。 なによそのふかした数字は。 |
だってねえ…… 互いの戦力比からすれば絶対に負けない戦いだから損耗の恐れも少ないし、大義名分も完備されてるし、凄く手を出しやすい状況だったのよ。 だからロールアウトしたばかりの第一世代機を実戦証明したいとか、創設間もないヴァルキリー隊に実戦を経験させたいとか、特別な事情はないけど経験値稼ぎたいとか、そんな連中まで続々と加わったせいでそこまで数が膨らんだわけ。 |
それで結局、数の暴力で押し潰しておしまいってわけ? |
ところがそうはいかなかったのよ。 |
なぜ、セブン・シスターズはこの世界で最も有名なヴァルキリーとなったのか? それは彼女達がヴァルキリーの戦史上、比類無き戦果を挙げた伝説の持ち主だからよ。 |
……… |
多国籍軍に半ば包囲されつつあった七姉妹は自治州領から打って出て乾坤一擲の勝負を挑んだわ。 既に彼女達は外交的に完全な敗北を喫していたけれど、討伐隊を全滅させれば講和が成立する可能性もあると信じてね。 |
七姉妹は日没と同時に自治州領を出撃し、国境周辺に待機していた多国籍軍を急襲。 そして実戦経験のない未熟な部隊に狙いを定め、合計十四人のヴァルキリーを瞬く間に殲滅して包囲を突破。 |
弱いところを速攻で潰して数を減らしたと…… |
そこから七姉妹は高度を上げて全速力で南進し、中立国の領空を侵犯。 この時、彼女達を追撃していた討伐隊の対応が二つに割れたわ。 |
あー…… 領空侵犯に構わず七姉妹を追ったり、あるいは気にして追わなかったりで? |
ええ。 経験の少ない部隊だと領空侵犯してることすら気付いていなかったりね。 七姉妹はここで足を一旦止めて、構わず追ってきた二十三人のヴァルキリーをこれまた撃滅。 |
その後、七姉妹は中立国の領空を離脱し、高度を一気に下げてから、今度は公海上に待機していた連中に挑んだの。 この時点では討伐隊もまだ半数以上が無傷で残っていたから正面切って相手をするのは非常に厳しかったんだけど…… ここで七姉妹は大都市圏の広がる平野を背後に置くような位置取りをしたのよ。 |
流れ弾を出すことへのプレッシャーを掛けたってわけ? |
そういうことね。 撃ちっぱなしの武器なんかはかなり使いづらくなるわよ。 |
形振り構わない戦い方するわね…… |
他にもあの手この手を駆使しながら延々と戦い続けた結果、更に四十人程度のヴァルキリーが七姉妹によって撃墜され、夜が明ける頃には大勢が決したわ。 |
つまり七姉妹は勝ったのよ。 いくら指揮系統がバラバラで新兵混ざりの敵とはいえ、たった七人で百人のヴァルキリーを退けるという偉業を成し遂げたわけ。 |
でも、めでたしめでたしとはいかなかったのよね? |
そうよ。 討伐隊の生き残りが撤退したその直後、満身創痍の七姉妹に二人の永世者が襲い掛かったのよ。 そのうちの一人が宝鏡さんで、もう一人の方は今に至るまで詳細な素性は不明。 |
これはもう完全な奇襲だったみたいね。 ……空間裂いて突然近くに現れたって話だし。 |
どうしろってのよ、それ。 |
どうしようもないわよ。 結局その場で七姉妹のうち五人が斬り殺され、残る二人も拘束されたわ。 |
一方的すぎない? |
一方的に蹂躙する算段を付けてから襲ったんでしょ。 この時は七姉妹の長所を殺すような随分とえぐい武器が使われたらしいわよ。 |
いずれにせよ、ここで彼女達の戦争は終わりを迎えたのよ。 七姉妹を失った件の自治州も数日後には完全に制圧されたわ。 |
生き残った二人はそれからどうなったわけ。 |
一人は裁判を経て刑に処され、もう一人は身柄を移送中に失踪して行方不明よ。 |
失踪…… |
で。 |
この七姉妹による一連の騒動はいくつかの教訓を残したわ。 |
たとえば。 |
どんなに強力でも数人のヴァルキリーだけで世界を変えるのはさすがに難しいということよ。 あとは大事を成そうとするならば永世者をバックに付けないと苦しいということかしらね…… |
そりゃまあ、ねえ…… |
とりあえず七姉妹については今回でおしまいよ。 ……参考になったかしら? |
なんで参考にするのよ。 |
だって貴方、溜め込んだ不満が爆発したら凄そうじゃない。 怪気炎を上げて反乱運動とかしそうに見えるわよ。 |
しないわよ! |
本当に? |
た、多分…… |