「可愛くなったのは縮んだ体だけね。やることは相変わらずえぐいじゃない」 ――姉から妹へ |
宝鏡について解説する。 |
それ、前にも一度話してもらわなかった? |
今回はより具体的な話だ。 |
さて、貴様のようなヴァルキリーと宝鏡のような永世者は、一体どこが違うと思う? |
力を失うことがないとか、装備を必要としないとか色々あるわよね…… |
そうだな。 |
でも決定的な違いとなると……社会的に強いかどうでしょ。 ぶっちゃけ金とコネと権力を持っているかどうか。 |
その通りだ。 連中が保有する資産や影響力を鑑みれば歩くメガコーポ、あるいは国家と呼ぶことすら不自然ではない。 だが金もコネも権力も、相応に維持の努力をしなければ失われるのもまた事実だ。 |
目減りしたり、奪われたり、力を支えるシステムが壊れちゃったり? |
ああ。 故に宝鏡が如何にして己の莫大なリソースを維持しているのか、というのも今回のテーマになる。 |
でも宝鏡さんが具体的に何をしているのかなんて誰が把握してるっていうのよ。 |
半分は聞きかじりになるが多少は把握している。 問題はない。 |
あっそ…… |
それで宝鏡についてだが…… 奴は様々な手段で常に大量の意思疎通を行っている。 |
…… |
ええと……意味がわからないんだけど。 |
ふむ。 順番に説明した方がいいか。 |
そうしてちょうだい。 |
では、貴様は普段どうやって通信してる? |
何よその唐突な質問。 |
いいから答えろ。 |
どうやって、って言われても…… 連絡したい人の登録名を思い浮かべて、通信要請して、相手がオーケーしたら話すだけよ。 |
その際、体を動かしたり声を出す必要はあるか? |
あるわけないでしょ。 |
そうだな。 電子機器への命令は脳波等で行い、情報は知覚野で直接受け取るのがこの時代の常識だ。 |
ま、何が重要かというとだな…… 今や我々は情報の入出力に関して従来の感覚器官や発声器官などのボトルネックから解放されているという点だ。 これは逆に言えば頭の処理能力が許す限りはいくらでも入出力が可能ということを意味する。 |
あー…… つまり宝鏡さんは処理能力が高くて、一度に沢山の人と話したり作業ができるってわけ? |
そうだ。 |
どんくらいよ。 |
平時で五十から百前後と聞いている。 |
いやいやいや。 それ多すぎでしょ。 |
宝鏡は意識の仮想化が可能だ。 奴は自分の精神の中に、独立した思考を行う別の意識を幾つも走らせている。 つまり思考の完全なマルチタスクを実現しているわけだ |
なによそれ。 土台からまるっきりインチキじゃない。 つまりあれ? いわゆる異能? |
異能ではない。 永世者の連中にとって意識の仮想化は習得可能な技術の一種だからな。 |
訓練して両手利きになるみたいなノリ? |
そんなところだ。 |
そして宝鏡は仮想化できる数が特に多く、作成した意識を様々な用途に割り当てている。 ちなみに大量に仮想化できるというところが宝鏡の異能に絡むらしい。 |
今の時代だと何でもやりたい放題な能力よね、それ…… |
やりたい放題だな。 思考による命令を大量に送信し各端末からの情報を受信する程度なら個人携行用の小型デバイスでも処理能力は十分だ。 |
問題解決の為の純粋な思考や学習、対人交渉。 マトリクス完全没入モードでの情報収集、電脳戦。 義体やヴィークルにリギングしての物理的な行動。 これらを全てを主たる意識による統率の下に並行して行うわけだ。 |
それにしても全く皮肉な話だ。 人間が作り上げた最先端の情報技術による恩恵を最も受けているのは、よりにもよって有史以前から生きる怪物どもという有様だ。 |
キ○ガイに刃物? |
その表現も正しいな。 |
ともあれ宝鏡を初めとした永世者どもが、この複雑化した社会においても権力を保つことが可能な理由の一つがこれだ。 テクノロジーを駆使することで自分自身がスタッフ豊富なヘッドクォーターとして機能するのだからな。 |
だから宝鏡さんはしょーもないメカ改造したり色々なことに首突っ込んだりできるわけね…… |
肉体を制御している主たる意識はあの通りだが水面下でやることはやっている。 再三言っていることだが奴に気を許さん方がいいぞ。 |