「飽きたからおぬしにやる。じゃが、くまさんはお気に入りだからやらんぞ」 ――宝鏡メイ、Aシリーズ譲渡の際に |
ねー |
何? |
あんたって負けたことあるの? |
…… |
ある。 |
あるんだ。 |
私は無敵なわけじゃない。 たまにはコロっと負けることも…… |
…… |
最近は全くないけどたまにはある。 |
うわー なんかむかつく。 |
ともあれ以前はたまに負けることもあった、と…… |
うん。 |
じゃあさー ボロ負けしたことってある? |
……… |
ある。 |
あるんだ…… |
相手は誰よ。 |
宝鏡さん。 |
それっていつの話? |
二年くらい前。 |
ふーん……あの人が相手ってことは練習試合みたいなもん? |
うん。 |
で、どんなメカにやられたのよ。 |
その時の宝鏡さんはロボットを使っていなかった。 |
え? じゃあ普通に機体を使ってたの? |
ううん。 |
となると……まさか生身? |
生身でもなかった。 |
じゃあ他に何があるってのよ。 |
変なスーツ。 |
スーツ……? 装甲猟兵とかが使うような奴? |
そんなにいかつくはなかった。 かわいかった。 |
かわいい……? |
くまさんだった。 |
……… |
スーツって……もしかして……着ぐるみのこと? |
うん、そう。 |
つまりあんたはクマの着ぐるみを装備した宝鏡さんにボコボコにされたってわけ? |
そういうことになる。 |
……… |
なんでそうなるのよ! 着ぐるみって何よ! |
一時期宝鏡さんはどうぶつさんシリーズの着ぐるみ機体を作っていた。 すごく強かった。 |
頭おかしいんじゃないの。 |
うん、おかしい。 |
それはそれとしてくまさんは強かった。 クローパンチをガードしたら両腕が折れた。 |
どんだけ凶暴なクマよ…… |
くまさんはそういうものだから仕方ない。 |
あとはパワーがある上にやたら素早かった。 脚が動いたと思ったら一足で間合いが詰まって懐に入られた。 攻撃の捌き方もやたらとテクニカルで打つ手がなかった。 |
あっそ…… |
でもさー、私は着ぐるみなんて一度も見たことないんだけど、そのどうぶつさんシリーズってそれからどうなったのよ…… |
宝鏡さんの中の着ぐるみブームは半年で終わった。 だから今は倉庫でほこりをかぶってると思う…… |
永久に終わってていいわよ。 |
でもかわいかった。 |
そんな緊張感削がれるようなものなんか見たくもないわよ! |
かわいかったのに…… |