「ま、いつか始まるとは思っていたわ。最近は本気の勝負が多かったし……」 ――美澤エレナ、開戦の報に接し |
前回の続きからそのままいくぞ。 |
斑鳩セツナと六堂マリアの武装について……? |
うむ。 |
どっちから説明するの。 |
順番通り斑鳩の方からで構わんじゃろう。 あやつの機体の方が六堂と比べればまだ理解しやすいからな。 |
斑鳩セツナの機体は一応第三世代機に分類される、というところまでは聞いた…… |
そうじゃ。 斑鳩の機体も春風と同じく科学兵器としての装いを完全に放棄しとるじゃろ? |
武器らしい武器も手にしていない。 |
札で戦うってのがまずもっておかしいからな。 あの極太の方も、砲口なんぞどこにもない。 まさしくわかりやすい方の第三世代機としての特徴を備えておる。 |
春風の杖と斑鳩の札。どちらも科学兵器には程遠い代物よ。 奴らの機体は力の源、精神的な拠を科学ではなく神秘に求めておる。 |
じゃがな……斑鳩の機体が春風の機体と決定的に異なる点がある。 春風のヴァルキリーはあくまで杖と衣装のセットに過ぎん。 |
そういやおぬし、戦場で斑鳩と実際に戦ったことがあるじゃろ? |
一応。 |
どうじゃったよ。 |
硬い。 |
もうちょい何か言えんのか? |
斬ったけど硬かった。 |
…まぁ硬いか。 ……やはりな。 |
何か秘密でも? |
当然じゃろ。 ただのヴァルキリーがおぬしに斬られて無事でいられるものか。 |
あやつはのー、全身が機体、即ちヴァルキリーそのものなんじゃよ。 他にも色々と付けとるがそっちはおまけじゃ。 |
なにそれ…… |
つまりな、爪先から髪の毛一本に至るまであやつの全身がヴァルキリーなのじゃ。 無論、内臓や骨格もな。生身のままなのはおそらく脳と脊髄だけじゃろう。 その部分すらかなり手を加えられてるだろうがな。 一般的な機体はコアに武装の形を与えることで力を得ているが…… 斑鳩の機体は人体そのものの形が与えられておる。 |
そんなことが可能なの……? |
難しい。だが、できんことはない。 おそらく全身義体の技術を高度なレベルで転用したのじゃろう。 |
あやつこそまさしく科学技術と神秘の力を完全に一体化させたハイブリッドよ。 その設計思想は他の第三世代機の二歩か三歩は先を行っておる。 まーさか前世界の人間を再現するとはの ……わらわにもその発想はなかったわ。 |
またたわごとが始まった。 前世界ってなに…… |
遙か昔、人類が滅茶苦茶な力を行使できた時代があったのじゃよ。 要するに斑鳩はその時代の人間と同様の力を発揮できるというわけじゃ。 |
単純な出力ならば現在のヴァルキリーも既に相当なものだが、斑鳩のアドバンテージは備わった力を極めて効率的に使いこなせる点にある。 おぬしらは所詮現代の人間じゃ。ヴァルキリーが持つ力を上手く扱えるような構造をしておらん。 じゃが、斑鳩は自らの身体を完全に作り替えることでその問題をクリアしたわけじゃ。 |
ずるい。 |
砲口を備えた武器も無しにあんなもんをぶっぱなせるってのがなめとるわい。 流石に身振り手振りを交えた動作は必要なようじゃが…… 更に力の扱いに熟達すればノーモーションで発射することも可能になるじゃろうな。 |
私はそれでも避けられる自信がある…… 狙っていることがわかれば予備動作の有無なんて関係ない。 |
誰もがおぬしと一緒だと思うなこのたわけ。 ま、斑鳩の機体についてはこんなところかの。 |
ひとつ聞きたいことが…… |
なんじゃい。 |
斑鳩セツナは、一番『実戦』をこなしてると聞いてる…… |
多いのは確かじゃな。 あやつはどこかでヴァルキリー同士の戦いが始まるとすぐに首突っ込むからのう。 |
なのに、どうして『電池切れ』にならないの……? |
お前、あやつの得意技が何か知らんのか。 |
……? |
不意打ちじゃよ不意打ち。 遙か彼方から背中を狙ってズドン。 |
背後からあんな極太を食らえば大抵のヴァルキリーはそれで即死じゃ。 だが正面から長時間戦うのと比べれば力の浪費はかなり抑えられる。 普段の斑鳩はそういう省エネな戦い方をしとるんじゃよ。 |
それ、省エネの意味が何か違うと思う…… |
……というかおぬしも確か後ろから撃たれたんじゃなかったか? |
初撃のことなら避けた。 |
よく避けられたな…… |
戦場で弾が正面からしか飛んでこない理由なんてどこにもない…… 被弾する方がどうかしてる。 |
だめじゃこいつ……はやくなんとかせんと。 |
とりあえず斑鳩セツナがイロモノだということはわかった…… |
うむ。 |
んで、次は六堂の機体についてじゃが…… 長くなってきたからそれはまた今度な。 |
了解…… |