「人殺しの術であれば一通りは修めています。お試しに、なりますか」 ――少女時代の斑鳩セツナ、リクルーターに対し |
今回はおぬしらの十年後についてじゃ。 |
はぁ? |
だから十年後にどんな暮らしをしていそうか、ということじゃよ。 それを知るためにわざわざ旧知の予言者に詳しいことを聞いてきてやったんじゃぞ? |
……自分で言うのもイヤなんだけど、私達が十年後も生きている保証ってあるわけ? 明日死んでもおかしくない子だっているじゃない。 十年後は死んでいる、とか一言でばっさりやられたら哀れすぎるんだけど。 |
うむ。 だから仮に生きていた場合の話じゃな。 |
何よその都合のいい予言…… |
それでも質的には一級の情報じゃよ? あまりにも正確な予言を繰り出すせいで、同じ永世者の連中からもお前はもう口を開くなと疎まれているような奴じゃからな。 |
あーはいはいそーですか。 |
まずは変わり映えしない奴からいこうではないか。 わらわと六堂は十年後になろうと姿形もやることも大して変わらん。 以上じゃ! |
投げやりすぎない? |
事実だからしょうがねえじゃろ。 わらわとしてもおそらくそうなるだろうとしか思えん。 今更自分の生き様を見つめ直して方向転換なんぞせんよ。 |
あっそ…… |
次は斑鳩じゃが……多分こいつも変わらんか。 あやつはそう簡単には普通の娘のように力を失って引退することがねえからの。 まったく便利な身体を手に入れたもんじゃのー |
生涯現役テロリストってこと……? |
そういうことじゃな。 まー、あやつは戦い続ける理由がある限り、延々と戦い続けるじゃろう。 |
救われないわねー |
続いて月影じゃが…… さすがにあやつも十年後は引退しているだろうとのことじゃ。 |
今でさえいい歳なんだから十年後もやってたら可哀想すぎるわよ…… 斑鳩さんみたいに何かに駆り立てられるような生き方もしてないんだし。 |
月影は相変わらず軍人続けてキャリアを積んでいくじゃろう。 ヴァルキリーを引退すりゃ将官養成の教育を受ける余裕も生まれるじゃろうしな。 軍功、名声、コネ、能力、あやつには全てが揃っておる。 大きなヘマでもこかん限りは間違い無く将官にはなるぞ。 |
それはそれで何か充実してるじゃない…… |
んで次は黒羽じゃがのー あやつも十年後は引退してるそうじゃよ。 |
まあそうよね。 |
だが、あやつは斑鳩のように直接戦うわけではなくとも、やはり過酷な道を行くじゃろうよ。 兄貴が残したコアを完成させるのはあまりに難易度が高い。 技術的な面でもそうじゃが、邪魔が必ず入るという意味でもな。 |
黒羽も頭の出来はいいが兄貴に比べりゃ二段階は劣る。 エンジニアとなって引き継いでも完成まで持って行くには無理がある。 人を使って集団で完成を目指す方向しかねえじゃろうな。 どっかの企業から金引っ張ってくるとか今後求められるのはそういう努力よ。 |
でも黒羽さんってもう頭のネジが飛んじゃってるんじゃないの? |
もしかしたらネジを締め直せるかもしれんぞ? |
そんな適当な…… |
まー、これは生きていればそうなるじゃろう、という話だからの。 黒羽の場合は普通に道中で殺されかねん。 なかなかスリリングな人生じゃよ。 |
どうしてそんなに根詰めるんだか…… |
次は春風よ。 あやつも十年後は引退しておる。 |
みんな第二の人生を行くのね。 |
そして春風はなあ……あやつの人生は安泰じゃよ。 少なくとも金について困ることはない。 興味と気の向くまま世界中を巡ったり一年中バカンスを謳歌するじゃろうよ。 |
うーわー羨ましーい…… でもあの子、悪い人に騙されないかとかそのへんが心配なんだけど。 |
そのあたりも心配はねえじゃろ。 春風とか神凪の直観はずば抜けとるからな。 悪い奴は本能で嗅ぎ分けてのらりくらりとかわすじゃろうよ。 |
んーで神凪じゃが…… あやつも十年後はもちろん引退しておる。 |
あの子、引退したらどうなっちゃうの。 コンバットマシーンとして生きてきたから目的見失ってがっくりしちゃうんじゃない? |
最初はそうかもしれんの。 あやつも色々とズレてはおるが、それでも普通の小娘になれば相応の生き方を見付けるじゃろう。 |
既に相当恨みを買っておるから報復を受ける可能性は残る。 しかし、その点さえ除けばあやつが一番慎ましくも平穏な生活を掴むんじゃねえかのう。 |
えー、なにー、温暖な片田舎に引っ込んで髪も伸ばしてエプロン掛けて家の中で料理作ったりして平和に暮らしちゃうわけ? |
そんな感じよ。 あくまで生きていられれば、の話だがの。 |
うん、まあ、そうね…… その一言がずっしりくるわ…… |
さて、だいたいこんなところかの。 それぞれの十年後については以上よ。 |
……ちょ、ちょっと待ってよ! |
なんじゃい。 人が話を締めようとしたところで割り込みおって。 |
あ、あたしは? あたしはどうなの? |
……… |
えっ |
…… |
えっ |
…… |
…… |
あのな、人がせっかくスルーして終わらせようとしていたのに、どうしておぬしはその気遣いを無駄にするんじゃ? |
な、何よそれ。 |
まあ尋ねられた以上は仕方がねえのう…… |
いいか、気を強く持って聞くんじゃよ? |
念動で両肩をポンと叩くとか器用な真似しないでよ! |
しょうがねえじゃろ。 わらわとおぬしでは身長差があるんじゃからよー |
いいから早く。 |
うむ……まー、なんじゃ…… |
おぬしは……その……十年後も引退していない可能性が高い。 |
え。 |
美澤エレナ2Xさい、ヴァルキリー続けてます、みたいな? |
そ……そ………そんなの、いーーーーーーやーーーーーーーーー!! |
どういうことよそれ!? そんな理不尽なことがあっていいはずがないでしょ!! |
じゃーからスルーしてやろうと思ったのにのう…… |
ひどい……あんまりよ……あたしの青春はどこに消えるのよ!? |
そりゃー、ヴァルフォースと戦争の中に消えるんじゃよ。 |
そのうち慣れるものよ? 私だって十年くらいやってるし。 |
何を嘆く必要がある? 力があるのなら世界を変える為に力を尽くせばいいだけだ。 |
そんなに力が長保ちするなんて羨ましい…… |
どっから出てきたのよあんた達は! |
細かい事は気にしちゃダメよ。 |
それにあんた達みたいな達観してる人とか筋金入りのテロリストとかコンバットマシーンと一緒にしないでよ! |
……… |
ちょっとあんた、何よその勝ち誇った顔は。 |
いや、いつもと同じ…… |
いくら神凪が生きていれば平穏に過ごせるからといって、それを妬むのは見苦しいぞ美澤。 |
まー、そう気を落とすな。 運命に打ち克てば人並の青春を掴めるかもしれんぞー |
そんな投げやりに言われても何の気休めにもならないわよ!!! |
十年後の美澤か……実際のところは、どうなんだ。 |
どうなんだ、とは? |
ヴァルキリーとしての質だ。 |
……沸騰した生き方をすれば間違い無く後天的に幾つかの異能が身に備わる。 そこまで掛かるのに約三年、その後の数年で身に付けた力を磨き上げれば、十年目には相当な怪物の出来上りよ。 並のヴァルキリーが相手ならば苦もなく片手で縊り殺すじゃろう。 |
……そうか。 |