「つまり旧黒羽研究室のメンバーは全員が記憶を断片化させているわけだ。無論、貴様も含めてな」 「……正解よ。なかなか察しがいいじゃない?」 ――斑鳩セツナと黒羽ナガレの会話 |
前回からの続きじゃ。 |
機体のバリエーションについて? |
うむ…… 適当に例を挙げながら話していこうかの。 |
まずは黒羽のエクリプスじゃが……あれは元々八発機で、現在は六発機だというのは以前にも言ったじゃろ。 |
確かにそう聞いたわね。 名前は今初めて聞いたけど。 |
前回黒羽機を指して、軽自動車にレース用のエンジン積んでるようなもんじゃと喩えたが、その喩えで言えば最初期型はレースはレースでもドラッグレース用の加速装置を積んでるような代物じゃった。 |
何考えてそんなもん作ったのよ……バカじゃないの? |
おぬしは何を言っとるんじゃ。 バカ以外がそんなモノを作るとでも思うのか? |
つまりバカだったのね…… |
最初期型の八発機がただエクリプスと呼ばれるのに対し、現行の六発機はパーシャルエクリプスと称される。 基本的には全部エクリプスで一括りにされるがの。 |
使用武器に違いとかは? |
殆ど無いな。 あの機体はコアユニット以外はとことん手抜きがされておる。 というよりも他に気を回す余裕も技術も無かったというのが実情じゃ。 |
武装については旧更科グループが製造していた汎用規格の火器をそのまま搭載してやりくりしておる。 ライフル等のごく標準的なものは一通り揃っているが……見るべきものは何もありゃせん。 左腕のビームクローとフェザーナイフは悪くないが、時代遅れの旧式には違いない。 |
まー、黒羽研究室は大バカをトップに据えたバカの集まりじゃったからな。 他所に吸収されても性懲り無くエクリプスの完成を目指しているようじゃの。 |
完成ってなによ。 無敵の機体でも作ろうってわけ? |
そんな程度ならばまだ可愛げがあるがのう…… 連中がしていることは、まだ空を飛ぶことすらできぬのに宇宙を目指すようなものよ。 |
はあ。 |
さて、お次はおぬしの機体じゃが…… |
フレイムリリー? |
うむ。 しかしあれはなあ……最初から完成度が高すぎて面白味がないんじゃよな。 |
今更おぬしには説明の必要もないことじゃが、フレイムリリーは他の機体であれば大規模改造をせねばならんような変化も装備の選択一つでお手軽に行えるのが強みじゃ。 |
そうねー あたしと先輩じゃかなりタイプが違うし。 |
装備選択の幅があるという点では月影機も同様じゃが、ステイルメイトは根本的に鈍重で防御が弱いという欠点を抱えておる。 どちらかだけなら装備でカバーもできるが、両方揃ってはどうにもならん。 |
ところがフレイムリリーの場合は元から全ての性能が高い故に、どんな役割もこなすことが可能じゃ。 おかげで運用面では凄まじいメリットを生み出しておる。 |
そうなの? |
これはなぜヴァルキリーに多用な武器が必要なのかという話にも共通することじゃが…… 誰しも適性というものは少なからずあるからな。 |
撃ち合いが得意な奴もいれば、殴り合いが得意な奴もいる。 使い手に合わせた装備を持たせることができるのならば、それに越したことはない。 |
ところが従来の機体では、使い手が機体に合わせねばならんような場面が多かったわけじゃ。 己の長所を活かすことのできぬ娘はさぞ窮屈な思いをしたじゃろうよ。 |
かといって使い手に合わせて一々大規模な改造をしては著しくコストが掛かる。 かつて那岐島は軌道の法廷の発注に応じて神凪機をベースに幾つもの特注機を製造したが、その為の費用は莫大な金額に上った。 最終的に請求書を回されたわらわもゼロが一つ多いんじゃねえかと思ったわ。 |
なんで最後の段階で気付くのよ。 あんたの監督がずさんだったんじゃないの? |
うむ……わらわもそう思う。 指示がどこでどうねじ曲がったのかはわからんが、何やら好きなだけ金を使って良いプロジェクトと認識されていたようでな…… 納品に立ち会った際の、やりたいことは全てやりきったという担当重役や技術スタッフの笑顔が眩しすぎて最早言葉もなかったわ! |
優秀なベースユニットを元に他人の金で気兼ねなく「おれたちの考えた最強のカスタム機」を作るのはさぞや楽しかったじゃろうよ! いい歳をしたおっさんどもが揃いも揃って好き勝手しおって…… 男の子って連中は全くもって救われん生き物だな! |
どの口がそれを言うのよ! |
つうかわらわも混ざればよかった。くそ。 |
結局それが本音でしょ…… |