夢ソフト

「ぐうぐう……ぐう………」

「え? パワーさえあればなんでもいい? ほんとエリカは大雑把ねえ……」

                              ――桜庭エリカと水無月ユーラ、要望聞き取りの際に

今回は私だ。

あんたが出てくるのも珍しいわね。

別に初めてというわけではなかろうが。

まあそうだけど。

それで今回は何よ。

機体の名前、だな。

もう殆ど出揃ってなかった?

神凪機が残っていたろうが。

あー、そういえばそうねー

って、あんたの機体……というかボディも残ってる気がするんだけど。

あとは宝鏡さんのロボットとか。

それらは放っておけ。

そんな適当な……

今に始まったことではなかろう。

あっそ。

ならそれはそれでいいわよ。

それで神凪機についてだが、あの機体はネメシスIIという名を持つ。

IIってことはIもあるわけ?

存在する。

現行機はその後継という位置付けだ。

とはいえ原型機の1は既に大半がその役目を終えている。

何せ第二世代機の初期型だ。

月影のステイルメイトよりも更に古い。

試合でも実戦でも目にすることは皆無だろうよ。

月影さんのアレよりも古いって相当なオンボロねー……

まあそちらはどうでもいい。

現行機は第二世代機後期型、双発の主戦機だ。

このあたりの説明は以前にもされているだろう。

そんな話もあったわね。

ついでに言えば、先述の通り原型機は殆ど姿を見掛けなくなったことから、現行機を呼称する際にIIが省かれることも多い。

だから以後は私もそれに倣うことにしておく。

そしてネメシスが開発された経緯だが……

軌道の法廷が新たなる主力機を求めて各社に開発を打診したのが事の始まりだ。

この時、軌道の法廷が各社に通達した要求仕様は極めて無茶なものだったが、紆余曲折を経て那岐島エレクトロニクスが開発と製造の両方で受注を勝ち取ることとなった。

どのあたりが決め手になったのよ。

特別なことは何もしていない。

他社が勝手に自滅していったと言う方が正確だな。

有力な競合であったはずの更科は社内の主導権争いの末に中途半端なプランを提出し、オルニックは極めて冒険的だった。

結局は無難な技術を最大限に活かし、現実的なプランを持ってきた那岐島に白羽の矢が立ったわけだ。

だが、出来レースだったという説もある。

当時の那岐島で受注競争の指揮を執っていたのは若い頃に宝鏡の薫陶を受けていたと噂される人物だ。

技術者としては超一流に至らなかったがビジネス面での適性を見出され、宝鏡の後押しにより那岐島の重役に上り詰めた。

その繋がりからどうすれば勝てるのかを予め教えられていた可能性は高いな。

そのくらいならよくある話でしょ。

最初から完全に決まってたとかでもなければマシなんじゃないの。

全く五分の条件で競争できたら苦労なんてしないわよ。

そうだな。

ともあれ那岐島によってネメシスの開発が進められ、試験機による評価も概ね順調に進んだ。

唯一、主力兵装の開発だけが遅れ気味だったが、当面は既存の武装を流用することとなった。

完成したネメシスは軌道の法廷により間もなく実戦とヴァルフォースへ投入され、期待以上の戦果を上げた。

主兵装たるあの槍が完成してからは完全に隙もなくなった。

そりゃまた結構なことで。

だが、な……特筆すべきはここからだ。

ネメシスは軌道の法廷が単純に強力な機体を得ることだけを望んで生み出されたものではない。

……?

軌道の法廷と那岐島の間にはネメシスの独占販売契約が交わされていた。

実戦と試合の両方で有用性を証明したネメシスは量産体制に入り、その全てが買い上げられた。

この時、軌道の法廷は備蓄コアを那岐島に渡した上での製造も行わせている。

そんなに作ってどうすんのよ……

機体ばっかそんなにあっても自前で使えるわけでもなし。

その通りだ。

軌道の法廷は大量に買い上げたネメシスの再販を開始した。

ヴァルキリー隊を持つこと叶わぬ小国や自治領、あるいは開発競争から完全に脱落した国家や企業にな。

どこに対して、どの程度の価格で売るかは完全に恣意的なものだった。

無償譲渡に近い価格で販売したケースもあれば、相手の足元を見たギリギリの値付けもあった。

結局何が行われたのかといえば露骨なパワーバランスの調整だ。

当然のことながら当時の相対的な強者は誰もがいい顔をしなかった。

那岐島だけは嬉々としてネメシスの製造を続けていたがな。

異議を唱えた各国はヴァルフォースによって軌道の法廷に挑戦したが、その全てが敗北に終わった。

完全な実力行使に訴えた国はいずれも悲惨な末路を辿った。

なんか横暴すぎない?

横暴だからこそ憎まれているわけだ。

だがヴァルフォース制定前の動乱を知る世代にしてみれば、今の方が遥かにマシと思えるのもまた事実だ。

軌道の法廷を軸とした現在の体制は消極的ながらも支持を受け続けている。

一方的な制裁を課された者にとってはどれだけ憎悪しても足りんだろうがな。

ふーん……

でもさー、もうネメシスがばらまかれてからそこそこの年数が経ってるわけよね?

第三世代機も登場してるわけだし調整の効果が薄れてるんじゃないの。

今後はどうするつもりなわけ。

私としてはコアが全て砕け、永世者が全員自殺するのが希望だな。

そうすれば何もかもが解決だ。

いやそれあんたの一方的な願望を並べただけじゃないの!

ダメか?

ダメってことはないけど……

ならいいじゃないか。

いやいやいや。