「て、てーまそんぐ?」 「ああ。試合の入場時に使うが……何かリクエストはあるか? なければ国歌になるぞ」 ――美澤エレナ、スタッフに問われ |
前回の続きからよー |
あたしの普段の生活なんてどーでもいいじゃない…… |
順繰りにやってるからそういうわけにもいかないの。 |
あーはいはい。 |
それで朝食の後は学校へ行く、ということでいいのかしら? |
そーよ。 日によっては何か訓練やらされたり試合とかで休むこともあるけど。 |
にしても真州はなんだかんだでオールドスタイルよねえ…… 今時一箇所に集まる学校なんて効率が悪くて仕方ないのに。 |
お国柄ってやつでしょ。 |
まー、そうねえ。 |
それであなた、学校の成績はどうなの。 真面目に勉強してる? |
完璧よ。 誰にも文句は言わせない数字を確保してるわ。 |
でしょうね。 ヴァルキリーというハンデがあるのによくやるわほんと。 |
じゃないと引退した時がきついじゃない。 進学だってするつもりだし。 |
あら意外。 引退後のことにも気を回してるわけ? |
そりゃそーよ。 |
でも進学するのはいいとして……これといった具体的な展望はあるのかしら。 |
いやそこまでは…… 何か独立できる士業を目指そうかなー、くらいには思ってるけど。 腕一本でどうにかできるのがいいわね。 |
つまり元ヴァルキリーとしての立場を使ってどうこうとかは考えていない、と。 |
絶っ対に嫌よ。 引退したらそういうのとはきっぱり縁を切るわ。 |
ストイックでいいんじゃないの。 |
それで話を元に戻すけど、学校にいる間は建前上の交流をしつつ昼食も済ませ、黙々と授業を受けた後にいつの間にか放課後ということでいいのかしら? |
何か言いまわしが引っかかるんだけど? |
で、学校が終わった後は? |
ヴァルキリーとしての時間の始まりよ。 最寄りの基地まで移動してから、訓練や調整、あとは軍事絡みの座学を受けさせられてるわ。 |
ギャップのある二重生活は大変ねー |
元から軍人志望だったあんたが羨ましいわ…… どうせそういうのも楽しくて仕方なかったんでしょ。 |
ま、それなりにね。 |
そういえば学校の同級生とかはともかくとして、ヴァルキリー絡みの人達との仲はどうなのよ。 |
どうもしないわよ…… |
そうなの? |
あたしや先輩の育成を担当してるチームの人達のことでしょ? |
そうそう。 |
私生活について必要以上に干渉してこないし、淡々とノルマを出してくるだけよ。 多少はアドバイスもくれるけどね…… |
ご機嫌取りとかはしてこないわけ? |
あたしがそういうの嫌いだって知ってるから絶対にやらない。 |
性格、完全に掴まれてるわねー |
それはそれで腹が立つんだけどね…… あたしにはこういう対処がベストっていう方針を持ってるのよ。 すっごくやな大人達だわ。 |
なら、とりあえずは従っておいた方がいいんじゃないかしら。 あなたを担当している人達はことヴァルキリーの育成について世界でも指折りの実績があるもの。 |
……そうなの? |
十年くらい前に低活性地帯の小国に招かれた彼らは、それまで使い物にならなかった女の子達を瞬く間にエースの群れに仕立て上げて一気に名を上げたのよ。 まー、その女の子達も馬鹿馬鹿しい作戦に駆り出されて結局は大半が死んじゃったけど。 |
それじゃ意味ないでしょ! |
だからその時のことを随分と根に持ってて、女の子達を徒に浪費させるようなことには消極的って話よ。 真州もフレイムリリーの開発に合わせて自国の戦力を更に強化すべく彼らを雇ったけれど、えらいひとたちとはいまいち仲が悪いみたいだし。 |
スポーツチームに例えるなら、有能だけどフロントにとっては扱いづらくてたまらない監督やコーチみたいなものよ。 あなたが見てないところだと凄い勢いで周りと喧嘩してるんじゃないかしら。 |
多分、彼らがいなかったらあなたの扱いはもっと悪くなるか、あるいは実力も伸びなくなるわよ。 少しは感謝でもしてあげなさい。 |
そ、そうだったんだ…… でもあたし、そんなこと聞かされて無かったし |
能ある鷹は爪を隠す。 大人はいちいちそんなこと、アピールしないのよ。 |
…… |