夢ソフト

「ヴァルキリーになった時はどーしよかと思ったけどな、おかげで種銭はめっちゃ溜まったわ。

 第二の人生、始めるで! 三十までにはうちのメガコーポを作ったる! だからなー、ミサキも手伝ってーな」

「親友の頼みは聞いてあげたいところですが! 私はお嬢にこき使われて今とても忙しいのです! よって無理!」

                                       ――門脇ノエルと爽涼ミサキ、喫茶店にて

今回は組織のお話よ。

組織?

国とか企業とかその他団体とか。

今までも何度か話題に出ていたけれど、目立ったところを今回で簡単にまとめておくわ。

まー、色々あるものね……





まずはメガコーポから。

今更だけど一応説明しておくと、メガコーポもしくは企業国家とは、主権を持ち規模の面でも従来の大国を凌ぐまでに成長した企業のことよ。

かつて企業は国家という枠組みの中に収まるものだったけど、物と情報の流通が円滑になればなるほど彼らの活動は広がりを増し、国家と並び立つ、あるいはその上位に位置するレイヤーを作り出すに至ったの。

たまに新しいメガコーポが台頭したり、あるいは崩壊したりで増えたり減ったりするけどここしばらくは十そこそこの数で落ち着いているわ。

はあ。

その中でも特に代表的な存在とされるのが那岐島よ。

基幹企業はヴァルキリー製造メーカーでもある那岐島エレクトロニクス。

WW1.0後に家電メーカーとして創業されて以来、ひたすら売上げを伸ばし続け、その後は旧財閥系の流れを汲む金融機関や重工業メーカーを取り込みながら躍進し、一時期は世界のトップ企業として君臨していたわ。

那岐島の特徴は……表現が難しいんだけど、何も特徴がないことよ。

真州系メガコーポだけど真州連合共和国に特に肩入れしているわけでもないし、メガコーポの中では比較的他者との対立を避ける傾向にあるわ。

思想的にも偏ったところがなく、黙々と利益を積み上げることから無色のメガコーポと呼ばれたりもしているし。

那岐島傘下のメーカーが製造する商品やサービスはどれもそつがなくて面白味に欠けるんだけど、品質は常に安定しているから熱烈なファンこそ少ないものの利用者からの評価は高いわ。

面白くはないけれど、無難であり、一時が万事その調子で、即ち強いのよ。

弱点がないってわけ?

そうねえ。

創業以来の歴史はともかくメガコーポという存在としては最も古株で、良くも悪くも那岐島は安定しているわ。

今も創業家が大きな力を持ってはいてもお家騒動をするほどグダグダしてないし。

少しばかり意志決定が遅めな傾向はあるけれど致命的ではないわね。

そして次はオルニック。北方圏を拠点とするメガコーポよ。

基幹企業は世界最大の資源会社でもあるオルニック・エネルギー・ソリューション。

他にもヴァルキリー製造メーカー大手のオルニック・アルケミー・テクノロジーズを擁しているわ。

オルニックは那岐島と違ってかなり変則的なメガコーポよ。

何せつい数十年前までは王制の国家だったし。

まあオルニックについてはそのうち詳しく解説するから今回は端折るわ。

何がどうして王制の国がいきなりメガコーポになるのよ……

色々と複雑なのよ、そこは。

次は現在のメガコーポの中では最大の規模を誇るインテグラル。

基幹企業はインテグラル・バンキング・コーポレーション。

ここは永世者が総帥を務めているという時点で極め付けに特殊なメガコーポよ。

そして永世者自身が生きる本社みたいなものだから本拠地らしい本拠地はなし。

インテグラルは人類と技術の革新をビジョンに掲げているわ。

それがどこまで本心かは知らないけれど、あらゆる分野についてその発展を促すべく挑戦的な態度で臨んでいるのは確かよ。

だから傘下企業の業績はとにかく浮き沈みが激しいの。

特定の分野でイノベーションを起こして市場を制圧するか、外して何年も鳴かず飛ばずでくすぶるかのどちらかというパターンが多いわね。

そんなんでどうしてトップグループとして君臨できるわけ……

とにかく先手、先手を打って来る上に命中率が高いからよ。

たとえ今まで優勢を保っている事業でもパラダイム・シフトの足音が迫れば迷わず動くし。

一人の永世者が一貫性を持ってグループを率いているというアドバンテージは極めて大きいわ。

それに外交的にも他の企業や国家からの攻勢をのらりくらりとかわし続けているから無駄も少ないのよ。

対立がエスカレートして大炎上しそうになると必ず総帥が直接出てきて鎮火するし。

どんな超人よ……

ちなみにインテグラルはヴァルキリー製造メーカーを自前で所有してはいないわ。

だから機体は専らオルニックから購入したものを所属ヴァルキリーの女の子達に使わせているのよ。

春風さんがベリルウィッチを装備していたりOATに出入りするのもそういう理由よ。

メガコーポはそれぞれ対立していたり手を結んでいたりするけれど、インテグラルとオルニックは特に強固な友好関係を築いているわ。

一般的な国家同士で言えば同盟と呼べる程度にはね。

その他の特徴としてインテグラルは宇宙開発事業に力を注ぎ込んでいるわね。

昔はその手の分野だと那岐島やナンバーナインが強くて、軌道の法廷の本拠地たる衛星も彼らが受注建造したけど、既に立場は完全に逆転したんじゃないかしら。

インテグラルは近い将来にテラフォーミングすら大真面目にやりかねないし。

とりあえず今回はこんなところかしら。

続きは次回よ。