「ミサキ、ジルベリカはええぞー! 法律も税制もユルユルな上に、優れたサービスに飢えた豚だらけや!」 「……それにしたってミリシア教国の輸出規制品目を引っ張ってくるとか、一体どんな裏技を使ったのかな?」 ――門脇ノエルと爽涼ミサキ、ホテルのラウンジにて |
前回の続きからよ。 |
はいはいこの世を支配するろくでなしどもの話ね。 |
さて次はもう消滅したメガコーポではあるんだけど、他にも関係あるから更科について説明するわ。 |
黒羽さんが元々いたってところ? |
そうよ。 那岐島と同じく真州に拠点を置いていたのが更科グループ。 基幹企業はヴァルキリー製造メーカーでもあった更科航空。 その一部門である更科航空宇宙研究所こそ黒羽さんのお兄さんが研究チームを率いていたというヴァルキリー開発部門なわけ。 |
更科はねー、なんというか内ゲバが酷いメガコーポだったと言われているわ。 創業家たる更科家と、その分家である黒羽家が特に大きな力を持ち、そして同じ一族内でも足を引っ張ったり蹴落とし合ったりで全然まとまりがなかったそうよ。 |
黒羽家って…… メガコーポの創業一族とか、じゃあ黒羽さんって本物のお嬢様なの? |
あったりまえでしょ。 そのへんの成金とは完全にレベルが違うわよ。 |
財閥系の流れを汲む更科家は真州の財界に二百年以上君臨してきた大物よ。 家系図を見れば首相とか大臣がゴロゴロしてるような一族だから。 |
でも、その歴史も数年前に終わりを迎えたわ。 ちょっとした事件が元で更科グループは完全に解体されちゃったのよ。 |
この事件そのものは今回の本筋に関係ないからやっぱり端折るけど、結果だけ言えば更科は軌道の法廷や他のメガコーポから袋叩きの目に遭ったの。 |
それで更科についてはここで一旦置くとして、次は新大陸に拠点を持つナンバーナイン。 基幹企業はナンバーナイン・ヘビー・インダストリアル。 低活性地帯で使用されるような機動戦車や戦闘機の製造を得意とするメガコーポよ。 |
ナンバーナインは傘下企業にヴァルキリー開発製造メーカーでもあるブランデル・エアロスペースを所有しているわ。 そしてこのブランデル・エアロスペースこそが、更科グループが解体された際に更科航空宇宙研究所を吸収したのよ。 |
更科グループの解体に伴い、更科に所属していたヴァルキリーの女の子も大半が他所へと移籍することになったんだけど、更科航空宇宙研究所がブランデル・エアロスペースに吸収されたことで黒羽さんもその親会社たるナンバーナインに移ったわけ。 |
よく黒羽さんがそれで納得したわね。 |
そこには何らかの取引があったと見て間違い無いでしょうね。 黒羽さんに聞いてもどうせ教えてはくれないと思うけど。 |
そしてメガコーポは他にも幾つかあるんだけど、全部説明するときりがないから最後に準メガコーポとも言える企業を挙げておくわ。 |
準メガコーポ……? |
メガコーポほど様々な業種を網羅的にカバーしているわけではなくとも、幾つかの大企業はその巨大さ故にそう呼ばれるの。 |
で、その内の一つがトワイライト・ドール。 サイバーウェア及びバイオウェア、ドローン業界最大手。 |
それらの事業で得たノウハウを活かしてヴァルキリー開発製造にも進出しているわ。 市場シェアでは上から数えて六〜七番手と言われているわね。 |
オルニックとはまた別の意味で変な機体を造るメーカーらしいわよ。 後発故に独自性を打ち出さなければならないという事情もあるんでしょうけど。 |
変って……どんなふうによ。 |
ご想像にお任せするわ。 ま、私もよく知らないんだけど。 |
トワイライト・ドールは噂だと何人かの永世者を顧客に持つと言われているわ。 彼らから提供される特殊なコアや女の子を強力なヴァルキリーに仕立て上げたりとか。 公にしてないだけで彼らも第三世代機を既にロールアウトしているという話もあるわね…… |
なんか怪しくない? |
怪しさだけならトワイライト・ドールはその辺のメガコーポよりも余程怪しいわよ。 非公開企業で、徹底した秘密主義で、役員の名前も、その他一切合切が公表されていないもの。 |
普通そういう情報はある程度公開しなくちゃいけないんだけど、ジルベリカを本社とする限りはメガコーポでなくとも色々と隠し通せるのよね…… あの街は永世者が完全に縄張りとしてるせいで、メガコーポや他の永世者ですら迂闊に手を出せないミリシア教国に並ぶある種の無法地帯だから。 |
もし今からメガコーポの席が一つ空くようなことがあれば、次にメガコーポとなるのはトワイライト・ドールでほぼ確実とか言われているけど、それもあまり楽しい未来じゃないと思うわよ。 |
どうでもいいわよ。 ろくでもなさではどこも一緒でしょ。 |
まあそうね。 というところで今回はおしまいよ。 |