夢ソフト

■ School life ? (7)

「ポーカーフェイス重要よ。超重要。変な顔芸とか身に付けちゃダメよ?」

「しませんよ!」

                                   ――雨宮セシルと美澤エレナ

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廃棄された都市区画の片隅、半ば崩壊しかけた競技場の中央付近で二人のヴァルキリーが戦っていた。少女達の機体は双方共に真州軍の最新鋭機たるフレイムリリーだが、武装とカラーリングには大きな差異がある。片方の少女――美澤エレナの駆る機体は赤く塗装されており、武装については両腕に装備されたユニットのみである。対峙する少女の機体には紺色の迷彩が施され、手には小銃を、背部には中遠距離用のミサイルポッドを装備していた。既に模擬戦が開始されてからそこそこの時間が経過していたが、戦況としては青い少女の方が美澤エレナに数度の被弾を強いて寄せ付けることなく若干の優勢を保ち続けていた。

 

 

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「このままだとジリ貧だが……さて、美澤はどこで仕掛けるだろうな」

「何も出来ずに終わると流石に印象良くないですよねえ」

「良くないどころか最悪だ。それ見たことかと嫌味の嵐が飛んで来るぞ」

「だったら大見得切らなければよかったじゃないですか」

「相手を黙らせてこちらの要求を通すには実力を見せ付けるしかなかろうよ」

競技場の端では美澤エレナの管理担当チームである田中イチローと南雲カレンが少女達の戦いを眺めていた。現在行われている模擬戦は真州が擁するヴァルキリーの中で誰がヴァルフォースの試合に出るかの枠を巡っての争いである。ヴァルキリーの少女達は全員が全員、ヴァルフォースの試合に出られるわけではない。ヴァルフォースが国家の権益を賭けて行われるものである以上、易々と敗北が許されるわけもなく、その舞台に上ることが出来るのは組織内の優秀なヴァルキリーに限られるのだ。そして組織内に複数の育成グループが存在するのであれば、出場枠を巡って面子や功名心を燃料とした争いが起こるのも自然なことであった。

「まだ基礎訓練も終えていないルーキーに枠を寄越せとか、そりゃ向こうだって何いってんだこいつって思いますよ」

「仕方ないだろうが。チャンスなんだ。近日中には真州と法廷でカードが組まれ、相手は恐らく神凪になる。雨宮をぶつけてなんでもありの勝負をさせるのならともかく、どうせ誰が出ても負ける試合で、その損失も織り込み済みだ。であれば美澤を突っ込んで衆人環視の中でボコボコにしてもらい、怪物級のヴァルキリーがどんなものかを身を以て体験させて危機感を煽る。先行投資だ。いいことずくめじゃないか。何の問題がある? いや、ない」

「どこまで本音なんですかそれ」

「頭の天辺から爪先までだ。美澤は大きく育てる。連中のような素人共に邪魔はさせん」

田中が競技場の反対側に居並ぶ真州軍のスタッフ達を一瞥する。彼らとて少女達の能力を引き出そうと己の全力を尽くして職務に努めていることを田中達も理解はしていたが、それで成果が上がるかどうかは別問題である。真州は那岐島から調達したフレイムリリーを有するが故に装備については一流だが、その運用やヴァルキリーの育成については先頭グループを走る一部のメガコーポ等には一段劣るというのが実情だ。その理由は、そもそも真州がヴァルキリー登場前の大戦以来、真に国家の存亡を左右するような争いを経験していないことにある。アウトランド紛争の折に現地にヴァルキリーを派遣したことはあるが、それにしても数十年前の出来事で、経験は明らかに乏しい。少女達を育てては使い潰すというサイクルを幾度も繰り返すことで得られる黄金の知見を彼らは所有していなかった。一方、外部より真州に招聘された田中達は少なからずその経験を積んでいるか、あるいは鉄火場を生き延びたヴァルキリー上がりのメンバーばかりであった。

「美澤には考える材料が必要だ。だから与える。最強のヴァルキリーと戦わせ、これを超えるにはどうすべきか、脳が汗を流すまで考えさせる。中途半端は良くない。狙う的は最大限に高くだ。それでこそ矢は彼方に届く。上手くいけば美澤の成長には凄まじい加速が付くぞ」

「その理屈だとミリシアの六堂あたりと戦えればなお良しということですか?」

「機会があればそれも悪くはないな。もし教国とのカードが組まれるのであれば必ず美澤をねじ込む。まあ六堂とまでやらせる必要はないかもしれんが、雨宮はやらせた方がいいと言っていたか」

「というと」

「異常な物には適度に近付けて耐性を獲得させた方がいい、だとさ」

「自分が完全に耐性あるからって彼女も気軽に言いますねえ」

「だが正論ではある。何が起こるかはわからんものだからな。あの性格だ。美澤が永世者に喧嘩を売ることがないとも言い切れんよ」

田中が視線を競技場の中央へと戻す。眼下では二人の少女達による戦いが、全く様相を変えぬまま続けられていた。