■ meeting(2)
「隠密作戦機ですからねえ、そりゃ作りましたよォ。毒霧に含み針にあとはなんだったかな……」 ――トワイライト・ドール技術スタッフ曰く
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夕刻から始まった水蓮アザミと高天原ハルカによる検討会は夜半に至っても続いていた。開始された当初は僅かばかりにあった緊張感など何処かへと消え失せ、机の上では小休止の際に持ち込まれた酒と肴が存在感を主張し、もはや居酒屋談義か何かとしか思えぬ風情を醸し出していた。人類社会における最大級企業の枢要に身を置く者達がこれでいいのかと嘆息されても仕方の無い様子ではあるが、正式な会合ならばともかく内輪の話し合いでグランドデザインが産声を上げる光景など業界や地位の高低を問わず往々にしてこんなものである。
「つまり弾を当てたり避けるために機動するから相手の動きを先読みできるという能力が意味を持つわけで、そんなことをするまでもなく片を付ければいいんじゃないですか? 自分に被害が来ようがおかまいなしで試合場全体を巻き込む大爆発でも起こせば、後はもう耐久力だけの勝負になりますよ。未来視もクソもありません。ほとんどハードの性能だけで勝負が決まればいいんです。以後は爆弾の性能を競うだけの技術競争に持ち込むのはどうですかね」 「来たわね暴論……」 「実際、更科のエクリプスは滅茶苦茶な自爆攻撃が出来るっていう話じゃないですか」 「コア自体を爆発させるのは御法度よ?」 「なので、そこは普通に威力を増し増しした爆弾を使うなりで」 「現行の技術でどこまで作れるかしらね。最悪ドローでもオーケーということで防御は捨てて、それこそ爆弾の威力と範囲だけに全ての性能をガン振りした機体として……」
アザミが那岐島社内で用いられる簡易設計システムを呼び出して各数値を手早く入力し、その結果を中空に投影されている大スクリーン上に展開する。
「両者平均的なヴァルキリーと仮定し、予想の範囲内で最も高威力が確保されたとしても一発で落とせるのは第二世代機中期型の、しかも軽量級の貧弱なタイプが精々ね。もちろんこちらは確実に大破」 「爆発の範囲を絞ればどうでしょう」 「近付いてからドカン? 結局そのために機動力や耐える装甲が必要になってスタート地点に逆戻りよ。どこか最適なラインを探れば多少は可能性があるかもしれないけど」 「いっそ極端に避けづらい武器でも用意しますか? 投網とか。スパスパ切り裂かれる光景しか思い浮かびませんが」 「範囲が確保できて排除が厄介な武器ということならガスも以前に検討はされたのよね……」 「ああ、そういえばそれがありましたね」 「殲滅用だし対ヴァルキリー戦では無価値の烙印を押された武器だけど、今あえてガスメインで考えてみるのもありかしら?」 「そういう路線なら有毒性の液体を撒き散らすのも手堅いかと」 「どっちにせよ対策が楽すぎるのが欠点ではあるわね。コーティング一つで無力化されるもの」 「一回だけなら勝てるかもしれないという時点で充分すぎる気はしますが……いずれにせよ本体の性能で大きな差を付けることができず、武器の特性を頼りに攻撃を当てるとなると、発射とほぼ同時に着弾するくらいの速度を持った武器が欲しいわけですが、そうなると本来の意味でのレーザーあたりでも持ち出します?」 「それも制限と対策の多さがどうにもね……撃つタイミングは必ず読まれるわけだし、照射の直前で減衰を促すような物を仕込まれるわよ」 「結局のところ直進して標的に向かうようなエネルギー武器では駄目と」 「対策が存在する限りはそうね」 「では実体弾で問答無用の速度を出すとなると……いっそ天体運動の力でも使えませんか。スケールは大きければ大きいほど良いです。その影響を唐突にゼロにすればそれこそ馬鹿みたいな速度で吹っ飛びませんかね」 「それはヴァルキリーが誕生して以来、どこもやろうとしては挫折した道なのよね。できるできないという話なら、一応はできるらしいのよ。けど、実用的なレベルでやったら一瞬でコアは全損して使用者の即死もまた不可避」 「そう都合良くは行きませんか」
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「……とりあえず現時点での結論としては、真っ当な手段で連中を倒すのは難しすぎるということかしら」 「だと思いますよ。しかしここまで長々と付き合っておいてから言うのも何ですが、今までに出た案なんて全部最初から室長が検討済みのものばかりじゃないんですか?」 「そうね。目新しいものは特になかったわ。だけど確認する相手が必要だったのよ。私が自分の経験を元に難しいと判断したものでも、貴女ならいけると思えるようなものがあるかもしれないでしょう?」 「なかったですけどね」 「それならそれで結構よ。私の権限にも限りがあるから最小の手間で倒せるのならそれがベストだけど、不可能となればいよいよ大きな仕掛けを用意するだけのことよ」 「新型機でも作ります?」 「そのつもり。計画を通して実際に勝負を挑めるようになるまでは三年から四年ってとこかしら」 「それはまた随分と先の話ですね。健闘を祈ります」 「他人事みたいに言うわね」 「多分その頃には私も引退しているかと。そうなったら他人事じゃないですか。軍に残るつもりもありませんし」 「していなかったら?」 「その場合は付き合いますよ。私個人としては軌道の娘達とかに恨みも何もありませんが、強い奴を倒すのは面白いですからね」 |