■ meeting(3)
「結局、この機体一つを造るのに幾らくらい掛かってるんです?」 「結果がどうあれ責任を取って辞める役が最初から用意されている程度には、よ」 ――高天原ハルカと水蓮アザミ ---------------------------------------------
「……ともあれ新しい機体を作るというのは大変結構なことですが、単純に性能が良いだけの機体を持ち出しても不十分でしょう。何かアイデアはあるんですか?」 「できるできないはともかくとして一応は。……ところでハルカ、未来視って何だと思う?」 「自分がその能力を持っているわけではありませんので正しいかどうかの自信はないですけど、その名の通り未来を垣間見る能力でしょう?」 「だと言われているわね。ちなみに那岐島で未来視を持った女の子が誰もいなかったわけじゃないのよ。私がヴァルキリーを引退して、貴女がヴァルキリーになるまでの間に、それらしき能力を持った子が一人いたの」 「……初耳ですよ、それ」 「でしょうね。世間に向けては勿論、社内でもあまり公にされなかったもの」 「解せませんね。超抜異能を持っているとなれば当然試合に駆り出されるでしょう。そこで結果を残せば隠し通せるものじゃない」 「秘匿部隊に回されるのでもなければね。でも件の彼女は秘匿部隊に居たのでもなければ、試合に出ることもなかった。どうしてだと思う?」 「まさか普通に弱かったとか……」 「正解。元々臆病な性格だったらしいけど、そうした要素を抜きにしてもヴァルキリーとして彼女はとことん弱かったのよ。どんなに卓越した異能があろうとカバーできないくらいに基礎能力に難があった。彼女がヴァルキリーだったのは一年と半年で、未来視らしき能力を発現して一ヶ月後に彼女は全ての力を失ったわ」 「未来視を持っていたというのは確かなんですか? そこまで短いのでは勘違いか何かということもあるのでは」 「違和感を訴えた彼女の話を聞いて、当時のスタッフが検証の模擬戦やら色々試した結果としては、そう信じるに足る材料が揃ったそうよ。それから更に詳細なヒアリングや実験をしている内に??」 「彼女はヴァルキリーとしての力を失った、と」 「そういうこと。だけど彼女が話した内容から、未来視がいかなるものかという情報を多少は手にすることができたわけで、本人がどれだけ弱かろうと那岐島にとっては功績大なりと言えるでしょうね。サンプル一つでは頭から尻までその情報を信じるわけにはいかないけど」 「それで一体どんなことが判明したんですか」 「彼女以外の全員もそうだという確証はないけれど、まず未来視の能力者は視覚的なイメージで未来を捉えるということ」 「その名の通りですね。だからこそ広まった名称なのでしょうし」 「次に、彼女達に見える未来は必ずしも現実にはならないということ」 「それも当然といえば当然の話ですね。不利な未来が見えたところでそれを覆せないんじゃ何の役にも立たない。他には?」 「能力の行使は任意のタイミングで可能。また本人にその気がなくとも自動的に発動することもあり」 「任意でというのはすこぶる厄介ですね。勝負所で必ず有利を取られるじゃないですか」 「だから昨日ボロ負けしたんでしょ」 「そういえばそうでした。ですがもう日付は変わっているのでそれは一昨日の話です」 「そんな細かいことはどうでもいいわよ」 「どうでもいいですね。続けてください」 「重要なのはここからよ。ときにハルカ、貴女は自分に未来視の能力が身に付いたとしたら何をしてみたい?」 「実際にどれくらい先を見られるのか次第ですが、何をしてもいいのなら間違い無く相場を張りますね」 「期待していた通りの俗な答えだから話が早くて助かるわ」 「期待に応えられて嬉しいですね」 「なので当時のスタッフ達は実験として市場の一瞬先の値を被験者に掴ませようとしてみました」 「結果は?」 「チンパンジーとかサイコロといい勝負に終わったわ」 「異能は何の役にも立たなかったと……」 「つまり未来視は万能ではない。多数の意志が介在する複雑な事柄までは読めない。能力としての限界があるのよ」 「朗報ですね。限界があるのならそこを衝けば能力そのものを無効化できる可能性は充分あるじゃないですか」 「とはいえ未来視以外にも厄介な異能は他にもあるのよね……軌道の法廷には他人の心を一から十まで覗き見できる手合いもいるって話だし。そうしたふざけた能力をまとめて潰すシステムが必要なの」 「一億人くらいが一斉投票をした結果で動く機体とかがあれば潰せますかね?」 「いけるんじゃない?」 「いけるんですか」 「異能を事実上無意味なものとするという点に限れば、多分」 「でも自分で言っておいてなんですが、試合では使えませんね」 「そうね。仮にその機体がリアルタイムに第三者達の意志によって動く場合、登録されている選手自体が動かしているとみなされて即時失格よ」 「あとはそんな滅茶苦茶なシステムでは当然まともに動くことができませんね」 「動けないわね。とてもじゃないけど戦うことなんて覚束ないわ」 「では、どうされます?」 「考えは一応あるって言ったでしょ。どうにか実用まで漕ぎ着けて見せるわよ」 「左様で」 |